またいつか
王宮の一室
丘の上の桜を見に、コナンや蘭たちがミラ王女と共に部屋を出て行った。
ここにはシノブと降谷、キースのみが残った。
蘭たちが出て行ってから、降谷は変装を解いてヴェスパニアに来たときと同じ服装に戻した。
「それで…君はシノブを追ってここまで?」
「…そうですが、何か問題でも?」
「ちょっと、喧嘩しないでよね」
今は帰国する前にぜひ一度話を、というキースに着いてきただけなのだが、もちろん降谷がシノブの傍を離れるはずがない。
キースは変装を取った降谷を遠慮もなしにジロジロと観察している。
降谷はそれを正面から受け止め、シノブの隣で刺々しいオーラを放っている。
「ところで、キースさんの話は大体想像つくわ。自惚れじゃなければ、だけど…」
薄く笑ってキースを窺がう。
キースはそれを受けて、大げさに肩を竦めた。
「ええ、シノブに本気でこの国に残る気はないか、最後の打診をしようと思ったんだが」
「何だと!?」
「…姫君付きの騎士にこう牙を剥かれてはな…」
キースに詰め寄ろうとする降谷を手で押し止める。
私がYesと答えるはずがないのに降谷を挑発するようなことを言うキースに、若干呆れる。
「そうね、私を手に入れるのはちょっと難しいかな。それに…」
「騎士が一人だと、誰が言いました?…不本意ですけどね」
半眼で本当に不本意そうに吐き捨てる降谷。
もう一人の騎士、赤井秀一は王宮前、レンタカーの中で待機させられている。
「…そうか、例の狙撃手か」
「ええ」
「騎士が二人もいるとは…大事にされているんだな」
「…この国に忠誠を誓うことはできないけれど、またいつかこの国を訪れたときにはエスコートよろしくね」
そう言って扉へと二人は歩いていく。
キースはその様子を黙って見つめていた。
「あ、そうそう…彼は騎士ではなくて、私の王子様なのよ。」
降谷が扉を開けたとき、シノブは顔だけでキースを振り返り、告げる。
パチンとひとつウインクをひとつ、今度は振り返らずに部屋を後にした。
今も十分美しい国だが、数年後、またさらに素晴らしい国に発展していることを願って。
(…行く先々でファンを増やされては困りますよ)
(ふふ、いいじゃない。さっきも言ったけど、王子様は降谷さんだけなんだから)
end