推理
「…で?何で二人ともここにいるの?」
あれから二人は赤井が潜伏する地点へと急いだ。
シノブが姿を現したとき、赤井は少し顔を明るくして両腕を広げて迎えたが、腕の中に入ってきてくれたシノブは勢いがよく、そのまま肩口に頭突きをされた。
その後、ちょっとそこに座りなさい、と正座まではしていないが、赤井と降谷はその場に大人しく座らされている。
「私、しばらく連絡とれなくなるって言ったよね?」
「…言われましたけど、まさか出国するとは思っていませんでした。」
「そうだぞ、シノブ。俺はお前ジェット機に搭乗するところを空港で見ていたんだ。」
二人を見下ろして怒っていても、納得できないのか二人とも反論してくる。
その様子から心配かけたのは分かるが、なにもここまで追いかけてくることはないと思う。
別にこの二人が暇人だったら話は別だが、よくよく聞くと赤井は任務が終わったため本国アメリカへ帰還するところだったと言うし、降谷はもちろん今でも忙しくトリプルフェイスを使い分けているところだ。
「とりあえず、二人とも過保護すぎるよ。ちゃんと仕事してよね、大人なんだから」
「…面目ない。」
「…俺は貴女の恋人ですから「恋人だからって何も情報がない状態で国境超えるなんてありえません。」
「はい…」
普段の様子からは想像できないほどしゅんと大人しくなった二人に溜息が漏れる。
来てしまったものは仕方ない。
早く二人が帰国できるように努めるしかないか。
シノブは城壁から見える東屋を見やった。
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王宮 東屋
ミラやキース、ジラードなどのヴェスパニア関係者とコナン達、銭形が集まっている。
最も、銭形は今しがたコナンによって手違いで眠らされてしまった。
コナンは仕方なしに初めのターゲットである小五郎ではなく銭形の声紋を調節した。
「そう…いるんですよ、この中にミラ王女を殺そうとしているやつが…」
「なに?!」
「発端は、あの不幸な猟銃事故…あれは事故では…」
これから解説するというところで重なって間抜けな声が響いた。
「ふぁ〜なんだぁ?」
「!(マジかよ…人間か!?)」
しかしそれも束の間、推理ショーに入ってすぐに当の銭形が目を覚ますという事態にコナンは焦りを見せる。
なにしろ麻酔銃は一発しかない。
打った後は博士に補充してもらわないといけないのだ。
「ちょっと待った!!」
「!シノブさん?もう、どこに行ってたんですかー!?」
どのように推理を進めるかコナンが高速で考えをまとめる中、背後から大きく響いた声に、皆の注目が集まる。
蘭の声に手を軽く振り、手すりをひょいっと乗り越えてコナンの隠れる柱の隣に立った。
「ここからは私が説明するわ。いいでしょう、小五郎おじさま。」
シノブがルパン扮する小五郎へウインクを送る。
「余計なことするんじゃないわよ」とルパンにしか読めない文字が顔に書いてあるようだ。
「ああ…じゃあ俺の代わりにシノブちゃんから説明してもらうことにしよう。とっつぁんもそれでいいよなぁ。」
「…ああ、俺はいいが…」
「ありがとう。じゃあ、準備はいいかしら」
皆が少しぽかんとした顔をしながらも頷く。
すぐに意味を理解したコナンは変声期を調整した。
「あの日の事故の証言はジラード公爵、貴方が行ったのでしたね?」
「あ、ああ…」
「その証言では自殺したジル王子が拳銃を持っていたのは右手…そして右のこめかみを撃っていたということなのだけど、どうなのかしら、ミラ王女。」
柱に背を預け、こちらも見ずにミラが答える。
「…いいえ、兄は、左利きです」
「なっ…!」
ジラードの顔色が変わる。
さらにコナンは畳みかけるように続ける。
「では、誰かが王子に間違えて拳銃を握らせたのかしら。先ほどコナンくんに聞いたところ、王子は小さいころから食事やサインを右でしたいたという証言があったそうなので…当日の銃はどうだったか…カイルさん、今持ってきてもらってますね?」
「はい…毛利探偵から持ってくるように言われていましたので」
小五郎がシノブの代わりに猟銃を預かる。
「ほ〜なるほどねぇ〜!」
「…おじさま、勝手に喋らないでください。」
手に取ったルパンも分かったのだろう。
犯人はやはり彼しかいないということが。
「このボルトアクション式のライフルは特注品でもない限り、左利きでも右で構えるしかないんですよ。弾を装填するボルトが右にしかついてないのですから…」
「…ジラードおじ様が…犯人だったのね」
「ええ、直前まで右手でライフルを構えていたのを見て、何の疑いもなく右手に拳銃を握らせたのでしょうね」
「なにを勝手な…!それだけで人を犯人扱いか!」
ミラがつらそうに顔を歪ませる。
ジラードはその様子に激昂した。
上手い言い訳が思いつかなかったのだろうが、それにしたって冷静ではない。
「おい!お前たち、この無礼な女を捕らえろ!!」
「はっ!」
ジラードの命で、後ろに控えていた兵が二人、前に出てくる。
その穏やかでない様子に今まで黙って見ていたキースとカイルがシノブを庇おうと厳しい顔で兵の前に出ようとする。
シノブはそれを片手で制する。
「お二人とも王家に仕える身。ここで私を庇うのはよく得策ではありません。」
「(姉さん!?なにを…)」
先ほどまで姉の声で話をしていたコナンも、予想外の出来事に状況を見守るだけになってしまう。
シノブの手を兵が掴もうとしたそのとき、コナンの隣を風が駆けた。
「私には、騎士(ナイト)がついていますので、ご心配なく。」
「なに?!」
シノブがそう言って美しく微笑むのと、兵士二人が床に沈むのはほぼ同時だった。