合コン 2





「俺が送っていくから必要ない。」




馴染みのある声がした途端、目の前の襖が乱暴に開けられた。

そこにいたのはグレーのスーツ姿の降谷さんで、万人が認めるイケメンなのに、物凄い凶悪な表情をしている。

(さながら危ないところの若頭みたいだよ。格好いいけど。)



「だ、誰だよ…」



飯田くんはそれを言うのが精一杯だったのだろう。

私の手を掴むその手が尋常じゃないくらい震えている。



「…嫌がる女性の身体に触れ、無理やり連れ去ろうとしたことはセクハラと誘拐未遂に当たる。」


「はっ?」


「俺がゆっくりと事情聴取してやろうか?」



眉間に皺を寄せてギロリと睨みつけたまま、降谷さんが私の手を優しく取る。

この場の皆が固まっている中、降谷さんと私だけが動いているような不思議な空間になっている。

手を繋いだそのまま降谷さんの隣に来ると、肩を抱かれてぎゅっと抱きしめられる。



「降谷さん…」



「悪いがシノブは俺の大切な人だ。そこらの馬の骨が、彼女に触らないでくれないか。」



俺は案外嫉妬深い方でね。


そう言って真っ白になっている飯田くんの胸ポケットにそっと数枚のお札を入れている降谷さん。



「ちょっ、降谷さん、いいから!多すぎるし!」


「これは俺が嫉妬に負けてシノブを連れ帰ることと、この場の雰囲気を壊してしまった詫びの分だよ。」



さあ帰ろうか、と言う降谷さんに、頷くことしかできなかった。

ハイヒールを履き、背中を追って外に出る。

美和子と宮本さんには悪いけど、彼氏が迎えにきてしまったら仕方ないと心で二人に謝った。



「さて、シノブさん」


「降谷さん!ごめんなさい!」



路駐されていたRX-7に乗り込み、車を走らせ始めたところで降谷さんが話を切り出す。

降谷さんに怒られても仕方ないが、自分から参加したと思われるのだけは嫌だ。

そう思って話を遮り先に謝ったところ、きょとんとした目をされた。



「私、合コンに行きたかったわけでも、降谷さんに内緒にしてたわけでもなくて…友達に飲みに誘われて行ったらあんな感じで…」


「分かってますよ」



必死で言い訳をしてしまうが、対して彼は穏やかな顔だ。

先ほどの人を射殺すような表情ではなかったことにほっとすると共に疑問が残る。



「待って、降谷さん。まず、どこで私がここにいると分かったの?」



疑問がたくさんあって、順を追って聞いて行かないと頭が追い付かない。



「ああ、単純に風見の友人があの場にいましてね。風見が貴女の大ファンだと言うのは有名な話ですので、自慢のメッセージが来たんですよ。」


「えええ…そんなとこから…」


「風見が血相変えて俺に報告に来た時は、何事かと思いました。けど、風見があんな状態になるのはシノブさんのことくらいですからね。」



仕事の話の方が落ち着いて仕事モードに入っているので、と普通に答える降谷に、シノブは不安を覚える。

それでいいのか、公安警察。



「で、すぐに俺は現場に急行したところ、シノブさんを汚らしい目で見る輩に絡まれている声が聞こえたので突入しました。」


「…ありがとうございます。」



いいえ、と横顔でにこっと微笑まれる。

その顔に少し違和感を覚え、まじまじと見つめる。



「なんですか?」


「降谷さん、やっぱり怒ってる?」


「…いえ、怒ってませんけど…。」



そう言いながらも少し罰の悪そうな顔をしている。

ちょうどタイミングよく赤信号で停まったところで降谷さんがこちらを見る。

眉尻を少し下げて、困ったように告げる。



「いえ、ただ、シノブさんには怒ってませんけど、やっぱり恋人に気安く触られていい気はしませんよ。」


「…降谷さんって、ほんとにヤキモチ妬きだったんだね。」



嫉妬深い彼氏の筈なのに、それが嬉しいって変だろうか。

思わず笑ってしまったら、隣で拗ねたような声を出したので、今度は声を出して笑ってしまった。









(そういえば呼び捨てだったね)


((…時々自分の中で呼び捨てしてるなんて言えない…))

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