合コン




なぜ、こんなことになったのだろう。




「美和子…。」

「私に言わないでよ…私だって、どうしてもっていうから参加だけしてあげたんだから。」



隣に座る美和子にしか聞こえないように文句を言う。

美和子もまた、高木くんという彼氏がいるのだ。

確かに好きでこんな場所には来ないだろう。



…こんな場所とは。



「はぁーい!警視庁交通課の宮本由美でーっす!交通違反は逮捕しちゃうぞ!」



某焼き鳥チェーン店の個室。

警視庁女性陣と消防庁男性陣との合コンである。



「由美が、シノブと知り合いだったら絶対連れてこいっていうんだもん。」

「それこそなんでよ。」

「有名人だからじゃない?一回だけだから付き合ってあげてよ、申し訳ないけどさ。」



友人のしたことに手を合わせて謝れる美和子には好感は持てるけど…。

正直、目の前の男性たちに好感は持てそうにない。

美和子に免じて始めは付き合うけど、途中で抜けようと決める。



「久しぶりに飲みに行こうって言うから来たのに…彼氏に言って来てないし。」

「えっ!シノブ彼氏できたの?!」



美和子が目を真ん丸にしているのを見て、そんなに意外かとこちらは半眼になる。

確かに、今思えば彼氏らしい彼氏も今までつくらず、ショッピングや食事といえば新ちゃんを連れ回していたところがあるので、仕方ないかとも思うが…。



「ちょっと!シノブさんの番ですよ!」

「え、ああ…はいはい。」



美和子とそうこう言っているうちに順番が回ってきていたようだ。

男たちの目が堂々とシノブを見つめる。

こんな機会でもないと生でシノブをまじまじと見つめることもできないのだ。



「工藤シノブです。仕事は警視庁勤務じゃなくて、フリーターみたいなもんです。よろしく。」



自分でもなんて自己紹介だろうと思うが、こんなことに時間を割くのももったいない。

ていうかひっそりと、気配を消したまま過ごしたい。

鉢合わせることとかないと思うけど、自分からちゃんと謝りたいから今は絶対会いたくない。

そう心では願ってみるが、周りはそうはさせてくれない。



「シノブちゃん飲んでる?」

「え、ああ…飲んでますよ」



すでに席は有ってないようなもので、隣は美和子だったはずなのに、なぜか両隣に男性が座っている。

美和子はと探すと、あっちはあっちで熱心な男性にアプローチを受けていた。



「シノブちゃんってお酒強いの?」

「いや〜どうですかね。あんまり飲まないんですよ。」

「えっ、大丈夫?ほどほどにね〜」



そう言いながら私の飲んでいた梅酒ソーダのおかわりを頼む。

まぁ飲むけど。あんまり飲まないことは確かだが、弱いとは言ってない。

すぐに顔が赤くなるので、誤解されやすいが…。



「ね、ライン教えてよ!」

「おい、ズルいぞお前!シノブちゃん、俺も教えて!また飲みに行こうよ。」



愛想笑いをずっと返しているからかずっと張り付いている二人がスマホを出してきた。

ちなみに片方は顔はイケメンの部類だがシノブの好みではない飯田くん、もう片方は公務員のくせにピアスホールが見え隠れしている少し出っ歯の水谷くん。



「いや、今日は仕事用しか持って来てなくて…私用のは置いてきちゃったから〜」



とりあえずどこまでの愛想笑いで誤魔化す。

ただしこの方法はアプローチをかわすのには有効だが、自分の心への負担が大きい。



「そっか、シノブちゃんはモデルなんだもんね〜」

「たまに雑誌とかでも見るよ!えーっと、ファッション誌で!」



モデルでもないし、こいつら絶対私のこと詳しくないくせにミーハ―根性で近寄ってきたな。

そう感じたシノブはさらにモチベーションを落とした。



「ねえ、シノブちゃんの好みのタイプってどんな感じ?」

「優しくて強くて頼りがいがあって稼ぎがあって…」

「「俺らじゃん!!」」



…絶対に違う。

楽しそうに笑っているのを尻目に、二杯飲んだし、早いけど引き時かなと周囲に目を配る。

美和子は困ってはいるが、危害は加えられていない様だし、他は楽しそうだ。

シノブはハンドバッグを片手に二人に声を掛ける。



「ごめんなさい、やっぱりちょっと酔ってきちゃったから、もう帰るね。」



そう言って席を立とうとしたが、急に後ろにバランスを崩す。

後ろの奴に引っ張られたと気付くのは早かったが、倒れていくのはどうしようもない。



「おっと、シノブちゃん大丈夫?」

「っ…大丈夫です!」



イケメン(何度も言うが好みではない!)の胸に倒れ込んだまま、睨みつける。

そっちがその気なら、と平手でもお見舞いしてやろうかとしたが、美和子の心配そうな声に、何とか思いとどまった。



「シノブ、酔ってるなら送って行こうか?」

「いや、別に…」



いい、と続けようとした声は横から伸びてきた大きな手に塞がれた。

男は背後に立って個室の襖を開けて自分も出て行こうとしている。

このままでは、まずい。



「あ、いいって佐藤さん!シノブちゃんなら俺が…」



「俺が送っていくから必要ない。」





目の前の襖が乱暴に開けられた。









(…自動ドア…じゃないよねー…)









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長くなりそうなので分けます。

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