止める




「やった…!」




赤井の放った弾は見事にヘリの翼の結合部に命中した。


その部分からは煙が上がり、ヘリの平衡感覚も怪しくなってきた様子を見て、墜落する前に撤退するかと思われたが、奴らはそこから再びヘリを寄せ、観覧車の結合部を執拗に銃撃してきた。




「不味い!もう片方には爆薬がまるまる残ってる!」




そう言っていたのも束の間、放たれた無数の爆薬は簡単に被爆してしまった。


次々に火を上げる爆薬。




「伏せろ!!」


「駄目だ、転がるぞ!」




車軸が悲鳴を上げて外れていく。


速度こそは早くないが、ゆっくりと水族館の方へ転がっていく。


観覧車を設置しているステージから落ちると、さらに加速するだろう。




「赤井さん!少し考えがあるんだ!この伸縮性ベルトでこっちのホールと繋ぐんだ!」


「…なるほどな。しかし止まるのか?」


「わからない…でもそれしか方法がないんだ!」




コナンの提案に赤井は頷き、そのままノースホイールを追いかけていく。


それと同時にコナンはサウスホイールにベルトをしっかりと巻き付けていった。



「コナンくん!」


「安室さん!お願い!」




事情を聞いていた降谷も、ひとつ頷くとコナンを抱きかかえた。




「赤井!!絶対に落とすなよぉ!!」




思い切り下に振りかぶってコナンをノースホイールへ放り投げる。


コナンの体を弧を描いて飛んでいく。


伸ばした腕を赤井が掴んだのを確認した。


自分ができるのはここまでだ。




「さて…お姫様を探していくか」




大きく膨らんでいくサッカーボールを横目に、残された観覧車の瓦礫の中へと身を投じた。







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身体が冷たい。




ここはどこだっけ…




怖い…地の底から響くような音が聞こえる。




何でだろう。瞼がくっついてるみたい。




そういえば、私、新ちゃんと一緒に…




新ちゃんは大丈夫だったのかな。




私も…行かないと…








降谷さんのところに、帰らないと









「降谷さんに怒られる…」





「…もう怒ってますよ」






重い瞼に力を入れて、ゆっくりと開く。



触れられた部分がじんわり暖かい。






「降谷さ…どうして」



「シノブさんが戻って来てくれないので、こちらから迎えに来ました。」





むすりとしたような、少し泣きそうな、けれど安心したような、複雑な顔をしている。



どうやら通路から落ちた後、気を失っていた様だ。



命があっただけでも有り難い。





「降谷さんがここにいるってことは…もう奴らは追い払ってくれたの?」


「ああ、コナン君と…赤井と。奴らの狙い通り、観覧車は片方転がってしまいましたけど、被害は最小限に留められたと思います。」


「そっか…っいたた…」


「ちょっと!動かないでくださいよ!シノブさん、打ち身に切り傷、捻挫…発見したときは出血も酷かったんですからね…!」





降谷さんが眉を吊り上げる。



そういえば、今まで気づかなかったけど、どうやら私はお姫様だっこされているらしい。





「…心配させちゃった?」



「当たり前でしょう!コナン君が一人でこちらに走ってきたときは、心臓が止まるかと思いましたよ!」




降谷さんの様子に申し訳ない気持ちが顔を出す。



私の一言がきっかけか自分の言葉がきっかけか、降谷さんがヒートアップしたのが分かった。




「う…でも、私も多少は役に立ったでしょ?」



「役に立つ立たないじゃありませんよ!」



「うん…けど、降谷さんも、みんなも心配で…」



「…シノブさんに言いたいことはたくさんあります。でも…」





抱き上げられている体制のまま、降谷さんは私の肩口に顔を埋めてくる。



その体温が心地よくて、また段々と瞼が重くなってくる。



駄目だ…降谷さん、怒ってるのに…





「今は、休んで下さい。俺がずっとついていますから。」



「ほんと…に、いてくれる…?もう、離れていこう、と…しないで…」



「…分かってますよ」





彼女の瞼が落ちた。



瓦礫から外に出ると、パトカーのランプが無数に点灯している。



風見と合流し、早く病院へシノブを搬送させたい。



他の公安や警視庁の奴らに見つかると事情を聞かれ、足止めを食らうに違いない。



人込みを避けて駐車場の脇を抜けようと足を速めた。





「!赤井…」




視線を感じてそちらを見ると、木にもたれたままこちらを窺がう赤井がいた。


コナン君がいないところを見ると、すでに彼は保護者達と合流できたのだろう。




「シノブは大丈夫なのか?」



「…怪我は多いが、命に別状はないだろう。」




ゆっくりと近づき、シノブの頬を撫でる。


ライフルを構えた時の獲物を捕らえた時のようなギラギラした顔つきを知ってる者からすれば、同一人物かさえ疑わしいその優し気な顔は、どうしようもなく俺を不安にさせた。




「そんな顔をするな、降谷くん。シノブは、君が守っていくんだろう。」




見透かされたように微笑まれ、かっと沸騰しそうになった気持ちをなんとか抑える。


さすがに、腕の中に彼女がいる状態で第二ラウンドをおっぱじめるわけにはいかない。




「わかってますよ!もういいですか?早く彼女を病院へ運びたい。」


「ああ…お互いに、今夜は散々だったな。」




赤井が後ろ手に手を振り、立ち去っていくのを見送る。


向こうから風見が走り寄ってくるのが見えた。





「…そうでもないさ。命は危なかったが、ずっと追い求めていた彼女を…腕の中に手に入れることができたんだからな。」












(これからのたくさんの時間を、一緒に過ごして行きましょう)


(貴方と二人でね)

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