降谷 零




「くそ…」



乱暴に公衆電話の受話器を置く。

キュラソーのことは風見に頼んだ。

後は東都水族館に向かうだけなのだが、どうしてもちらつく彼女の表情。



酷いことを言ってしまった。

いつも美しく微笑んでいる彼女を、泣かせてしまった。



しかし、彼女は皆に愛されているのだ。


そしてまた彼女も、周りの皆を愛している。


別に俺が冷たくしたって、FBIや警視庁の連中、他のたくさんの奴らが彼女を慰めるに違いない。




…俺だけが…自分だけが彼女の傍で守ることができたら、どんなに幸せだろうか。


そんな考えが頭を過り、頭を振る。

公私混同もいいとこだ、しっかりしろ、降谷零。

キュラソーのノックリストを渡すわけにはいかない。

余計なことで思考を乱されるわけにはいかない。





「…まだ泣いているだろうか。ちゃんと家に帰ってくれただろうか。」




自分の中の彼女を追い出そうとしても、目を閉じればどうしても彼女の顔を思い出してしまう。


…自分が突き放すことでこの件から大人しく引き下がるとも思えないが、彼女が背負う者達の中から、自分だけでもいなくなればいいと思ったのだ。

特に今回は、一番危険と隣り合わせなのは間違いなく自分なのだ。




「守りたいのに泣かせてしまうなんて…駄目な男だな。」







公安は闇だ。


誰にも悟られず、日本を揺るがす大きな敵と戦うのだ。


自分よりも、家族よりも、恋人よりも、与えられた職務を全うするのが全てだ。


数年前の自分ならば、女一人に何を、と怒鳴っていただろうが…。




しかし俺は彼女と出会ってしまったのだ。




彼女は光だった。


近づくたびに、その眩しさを感じていたのに…


闇は光と一緒になれる筈がないのに。



今の今まで、離れることができなかった。


"安室透"として出会った筈なのに、今の俺は…






シノブさんは…幸せにならなくてはいけない。


俺なんかが隣に立てる筈がない。立ってはいけない。







「すみませんシノブさん…もう安室透のことは忘れてください。」






静かに呟き、降谷は仲間と合流するべく走り出した。










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短い。

一応安室さんの呼び方は分けてます。

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