暑い日
「暑い…」
「……」
「暑いよー赤井さーん。」
長かった梅雨が明けてジメジメした気候ともおさらば!
毎日毎日雨が降っていたときは恒例のポアロで執筆活動をしており、長らくプライベートで外出ということもしていなかったが、今朝は晴天、清々しい気分で実家へと帰ってきたわけだが…。
「湿気はマシになっただろう。」
「湿気が無くても暑いよー。」
外を歩いているときは朝も早い時間(といっても9時頃)だったため、あまり感じなかったのだが、どんどん気温が上がっていき室内の温度計を確かめると30℃に達していた。
シノブはしばらくは熱を感じながらも大人しくしていたが、時間が経つにつれて上がる気温にやられ、工藤家のバーカウンターで突っ伏している。
「ていうか何でクーラー点けてないの〜?」
「俺がいる間も君のご両親が高熱水費を出してくださってるんだ。少しでも節約するのが筋だろう。」
「…娘の私が言うんだからいいじゃないちょっとくらい〜!」
変なとこで真面目な赤井さんに、いつもは関心するところだが、今日はそうもいかない。
それにしても、男の人の方が体感温度が高いと聞くのに、なぜこの人はひとつも顔色を変えていないのだろうか。
もしかして着ている服に仕組みがあるのだろうか。
それとも実はものすごく我慢強いとか…?
じっと見すぎていたのか、アイスコーヒーを注いでくれていた赤井さんが私の方を見る。
「…赤井さん、服の下に保冷剤とか仕込んでないよね?」
「ほー…気になるなら脱がしてみるか?」
「遠慮します。スイマセン。」
安室さん相手なら照れてくれそうだから脱がしがいがあるが、赤井さんを相手にするとこちらが脱がされかねない。
…いや、待てよ
「…暑い」
「…シノブ?」
脱がされるくらいならこっちから脱げばいいのか
暑いし、ちょうどいい!
シノブは自分が着ていた薄手のシャツのボタンを外し、脱ぎ始めた。
シャツ自体も、元々羽織るように着ていただけなので程なく床に落とされる。
ちなみに下はチューブトップとホットパンツだ。
日焼けひとつない白い肌が、蛍光灯の下でも眩しい。
「お前…誘っているのでは…ないよな?」
「はぁ?赤井さんが!クーラーも点けてくれないし、暑いし、脱がそうとするからでしょ!」
「…わかった。クーラーを点けよう。」
降参だ、と両手を挙げる素振りをする赤井さん。
やったー!と、たかがクーラーが点いただけなのに(シノブにとっては死活問題だった)これまた両手を挙げて喜ぶシノブ。
「ただし」
クーラーのリモコンを操作し、戻ってきた赤井がシノブの背後に立つ。
「服は着た方がいい。なぜなら…」
「ひえっ!」
赤井がシノブの腹を撫で上げた。
すべすべの肌を、赤井の大きな硬い手のひらが上下する。
「あ、赤井さん…!くすぐったい!」
「汗ばんでいるのに、このままクーラーで冷やすわけにはいかないだろう。もちろんこの足もな。」
赤井の手が、今度は太ももに移動していく。
ホットパンツと太もものボーダーラインを確かめるように左右に動く度にぞくぞくするものがシノブの背を駆け上がる。
「わ、わかった…シャツ着てレギンス履くから…!」
「…いいだろう。」
観念したシノブが赤井の方を必死に振り返りながら訴える。
赤井が承諾したのを聞き、ほっと息を吐いた。
チュッ
「…ん?」
「ああ、すまない。広く開いていたのでつい口が滑ってしまった。」
スカーフを巻くか、髪はおろした方がいいぞ。
赤井が言うのが早いかシノブが洗面所に走るのが早いか、3秒後にはシノブの悲鳴。
5分後には、首にオシャレなスカーフを巻いた彼女が姿を現した。
「暑さでやられた頭は治ったか?」
「うるさいっ!」
(あれ?シノブさん、今日は外、暑かったでしょう。)
(うん…もう外でたくないから、ポアロ終わったら送ってって〜)