昼ごはん
幸ちゃんが厳しいときの助っ人だったが、今では小道具も作ったりするように…。
安価で受注製作承ります。
縫い子の報酬はカレーで承ります。
出会いはヤクザのファンに絡まれていた姉さんを助けた左京さんです。
左京さんと至さんメインで贔屓が万里です。
万里たちはまだ高校生です。
「こんにちは〜、注文の品お届けに参りましたー」
「おう、毎回届けてもらってすまねぇな…」
決まった予定もなく修羅場もなく事件もなく平和な日の午前中
以前注文された品の確認兼納品を行うため、シノブはMANKAIカンパニー寮を訪れていた。
ちなみに、この時間帯に来るのには理由がある。
この寮には現在20名余りの男が住んでいる。
注文を受けた当初はみんなが揃っている時間帯に訪問したりもしたのだが、珍しい部外者の訪問…しかも有名人ともなればすぐに周りを囲まれ、身動きが取れなくなってしまうのだ。
『今日も綺麗っス!と、隣に座ってもいいっスか?』
『そのワンピース、今日の髪型とピッタリお似合いです…どこかのお姫様みたいです…』
(たいちゃんも椋ちゃんも可愛いんだけどね…)
子犬系男子(シノブが勝手に呼んでいるだけ)のブンブンと振られている尻尾も最高。
『ちょっと犬っ!そんなにシノブ姉にくっついてたら迷惑でしょ!まったく、シノブ姉も、隣のダッサイ俺様がじめじめしてんの、何とかしてよね!』
『なっ!お、俺のことかよ!俺は別に…ただ、最近見てなかったから元気してんのかと思っただけだ!』
幸ちゃんや天ちゃんのツンデレ系なのにこちらをチラチラと気にして構ってくる感じも最高。
もちろん、他のメンバーは他のメンバーでみんな魅力的なのだから、創作意欲が湧きすぎて困る。
とまあそんな様々な理由で、学生組や社畜の至がいない時間帯を見計らっているのだ。
もちろん監督と左京さんは依頼主だから、事前連絡の上、どちらかが寮にいるときに来ている。
「左京さんの想像通りにできてるかどうか…」
「ああ…なかなか軽く出来てるじゃねぇか、上出来だ」
なんと今回の劇は怪盗モノ。
綴ちゃんが偶然居合わせたキッドのいつもの脱走ショーに感激し、その日のうちに仕上げた力作だ。
「俺は本物のキッドなんざ見たこと無ぇが、こんなチャカからトランプたァ洒落た野郎だな」
「そうですね〜なかなか気障ですよね〜」
今回の注文品は怪盗が使用する銃。
なんとこちらはトランプの代わりに薔薇の花が射出される。
威力もなかなかのもので、木の壁くらいになら余裕で刺さる。
「簡単な説明と注意点はこちらです。くれぐれも人に向けて撃たないようにしてください。誤作動ないようにちゃんとセーフティ付けてますから」
「ああ。脚本では壁や床に向かって撃つ。演者からは結構距離があるから大丈夫だろう」
カチャリ、と静かにセーフティを外す姿の、なんと様になる事か。
怪盗という設定が無ければ、ピストルが一番似合うのは左京さんに違いない。
そんなことを考えながら左京さんが出してくれた羊羹を咀嚼していると、バタン!と乱暴に扉を閉める音が聞こえる。
ドタドタドタと響く音と共に姿を現した姿は着崩したブレザーだった。
「はよーシノブさん!」
「おはよう万里ちゃん。今日も重役出勤だねえ」
隣の席を乱暴に引き、ドカリと座る。
現在の時刻は午前11時30分。
まあ、ギリギリおはようで合っている。
「摂津、てめーよく俺の前に面出せたな。毎回毎回学校サボんなっつってんだろうが」
「俺だって左京さんいねーときに降りてこようと思ってたのに、シノブさんが来るの見えちまったんだからしゃーねーし」
悪びれもせずテーブルに肘を付く万里に、青筋を浮かべる左京。
シノブは、勉強は学生の本分だとは思うが、万里はサボっていても実際勉強が出来るし、言っても聞かないのなら自己決定に任せるしかないと思っているので放置している。
「じゃあ万里ちゃんは何限から学校行くの?」
「あー…もうンな時間だし、昼から行くわ」
チラッとだけ時計に視線を移し、またシノブに向き直る。
「そうね、時間も時間だし…もうお昼の時間ね」
万里の言葉に頷いたシノブに、二人ははっとした表情を向けた。
一応言っておくと、二人はシノブを挟んで両隣に座っている。
「そうだな、せっかくだし、外に昼食でも食べに行くか」
「いやいや、シノブさーん、俺の為に昼飯作ってくれよー」
シノブは考えた。
唐突な昼食についての提案が二つ。
左京の提案についてはさほど珍しいものでもなく、こうして品物を届けにきたときなどにたまに誘われるままにランチに行く事がある。
逆に万里の提案は、もし今日のような状況がよくあるのであれば珍しい誘いでもなかったが、万里が先ほどシノブの姿を見て慌てて降りてきた様子で分かるように、こんなタイミングのいいことは稀である。
「うーん…じゃあ、キッチンをお借りしましょう!」
「っしゃ!!」
パンッと手を叩いたシノブに、万里が高く拳を上げる。
「左京さん、申し訳ないですけどランチはまた今度連れてってください」
「…仕方ねぇな。また連絡する」
もちろん左京さんの分も昼食作りますから、と付け足すと、満更でもなさそうな表情で頷かれる。
その後のフォローも欠かさないのがデキる女なのだ。
しかしシノブの考えは甘かったようで、それにはまた万里が苦言を呈す。
「おいおいおいおい!そりゃズルくね?左京さん、んな頻繁にシノブさんとメシ行ってんのかよ!」
「…頻繁にじゃねぇ。コイツがここに来た都合で行くくらいだ」
「はぁー?」
勢いよく立ち上がった万里が左京に詰め寄る。
黙って見下ろされるタイプではもちろんない左京も静かに立ち上がり、メンチを切っている。
ヤンキーvsヤクザ
それを尻目にシノブは椅子に掛けてあった臣のエプロンを手に取り、キッチンへ歩いて行く。
まるでどこかの誰か達を見ているようだ。
そういえば最近あれを食べていない気がする。
お腹が空けば大人しくなるだろうと適当に考えながら、シャツの袖を巻くった。
「ガキが色気づいてんじゃねぇ…」
「おっさんは引っ込んでな…」
「二人とも出来ましたよー、置いておきますよー」
「わ〜サンカク〜!」
「美しいサンドウィッチだね!んんっ!詩欲が…!」
「…誉、うるさい」
「ふふ、僕たちの分まで作ってくれたんだね。さっそくいただこうか」
という訳で、冬組3人+三角と一緒に美味しくいただきました。
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