恋人は魔女C



彼女と連絡が取れなくなって3日

あれから仕事をしながらも出勤前や退勤後に彼女の家の前まで行ってみたが、朝は人の気配がしないし、夜は灯りが点いていない。

コナンくんに言われたことを考えるなら、自宅にいるということは考えにくいのだが。



「俺たちしか知らない場所…」



今まで行ったことがある場所はたくさんあるが、自分達しか知らない場所と言えば……そんなところ、あるか?

今までの想い出を振り返ってみても、2人とも忙しい中自宅以外で会った記憶なんて数えられる。

東都水族館…は俺たちにとって大切な場所だが、結構知ってる人がいるだろう。

一度きりのデートで行った場所…ショッピングモールやレストランにいるはずもない…よな。

まさかヴェスパニア…もないし。

ていうか俺たち2人きりのデートなんて滅多にない!

大抵誰かに会ったり、邪魔されたりしている。

最近は…最近、は…まさかあんな場所に、とは思うけどでもこうなったら心当たりを全て訪ねるしかない。

降谷は見慣れた庭先に踵を返し、愛車のエンジンを掛けた。



「しかし、来てみたのはいいものの…我ながら、殺風景すぎてなんでここに来たのか問い詰めたくなるな」



降谷は固いコンクリートの階段の上から両端に長く伸びる砂浜を覗いた。

天気は良いが、かなり寒い。

今日は私服で、厚手のコートにマフラーを巻く重装備の筈だが、正面から撫で上げてくる海風で頬が痛い。



「ここで、この間プロポーズされたんだ…」



シノブさんに、プロポーズ…を



「〜っ!」



お、思い出したらかなり恥ずかしい。

ほんと俺、なんでもっとスマートにできなかったんだろうか。

あのときが仕事だったら、ポーカーフェイスに完璧にやり遂げる自信があるのに、彼女の前では表情を取り繕うこともできない。

しかも挽回のためにプロポーズさせてもらいたくても、彼女がいないのでは話にならない。



「…こんなことなら、男として恰好つかなくてもあのときに返事してたらよかったな」



自身の背より少し低い冷たい石壁にもたれ掛かる。

吐いた白い息が風に撒かれる。



「なんて返事してくれるの?」

「もちろん、はい、喜んで!」



建前用の笑顔ではなく、本当に嬉しいときにしか出ない笑顔で、彼女を強く抱きしめたまま返事をすればよかった。

あれから大した日にちが経っていないのに、ここはもうこんなに寒い。



「ふふ、じゃあ降谷さん、私と結婚する?」

「はい、喜んで」



ふいに聞こえた幻聴に満面の笑顔で答えたら、後ろからぎゅっと心地いい力で抱き着かれた。

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