恋人は魔女B




昨日俺はシノブさんにプロポーズされた。

…すぐに頬を抓って確かめたので夢ではない。

海風が心地よい浜辺で抱き合いながら、シノブさんにプロポーズされてしまったのだ。

いや、もちろんシノブさんと結婚したくないとかそういったことは断じてない。

俺も一生を添い遂げるならばシノブさんしかいないと思っていたし、結婚式も知り合いを呼んで盛大に挙げたい派だ。(むしろ見せびらかしたい)

しかしだ、しかし…女性からプロポーズされるのはどうなんだろうか。

やはりここは然るべき場所で、然るべきタイミングで、男性の方から人生を共にしてほしいと伝えるべきではないだろうか。



とまあ、そんな俺の勝手な気持ちから、最悪なことに、返答に詰まってしまった。

自分を抱きしめたまま固まった俺に、シノブさんはそっと腕から抜け出し、困ったように笑った。

『驚かせてごめんね、降谷さんの都合もあると思うし、えっと、うん、帰ろうっか』

…やはり、今思い出しても最悪だ。

俺は不甲斐なさからデスクに額を打ちつけた。(ちなみにここは警察庁の自席である)



「ふ、降谷さん大丈夫ですか?」

「ああ…気にするな、なんでもない」



俺にできることはただ一つ

完璧なプロポーズプランを計画し、実行することだ。

真っ赤な薔薇…は嫌な奴を思い出すからパス。

やはり、白のスーツに美しい青色の薔薇の花束を持って行こう。

青の薔薇の花ことばは、『神の祝福・奇跡・夢叶う』シノブさんに出会えたことがすでに奇跡だと思っているし、これから未来のことを思うとすごくぴったりだと思う。

いつも以上に磨き上げた愛車で彼女を迎えに行こう。



「よし!!風見!俺はもう帰るぞ!!」

「はい、お疲れ様です」



意気揚々とデスクを立ち上がり、鞄を手に持つ。

地下駐車場で愛車に乗り込み、電話帳から最愛の彼女の連絡先を呼び出す。



「あ、シノブさんですか?」

『おかけになった電話番号は、電源が入っていないため、繋げません。』



思わずニヤけた顔がその表情のまま固まる。

無機質な電話会社の音声だけが虚しく響いた。

その日は自宅に帰ってからも何度かかけ直してはみたが、ついに彼女の声を聞くことはなかった。



「…うわ、安室さん、酷い隈ですね!」

「梓さん…そうですかね?」



次の日はポアロのバイトが入っていた。

結局電話のことが気になったのと、プロポーズの計画を立てるのに夢中で一睡もできなかったのだ。



「あ、梓さん…この前の日曜日からシノブさんってここに来ました?」

「えっ、シノブさん?うーん、来てないと思うけど…たまに変装して来たりするから、はっきりとは言えないですね。素顔で来てたとしたら、一度も見ていないですよ。」



梓の返答に、頷く。

確かに、あの人はたまに趣味で変装して馴染みの場所に現れる。

そして知人でもなかなか正体を暴くことは難しい。



「シノブさんのことなら、私より安室さんの方が詳しいじゃないですか」

「いや…そうなんですけど、昨日は連絡が取れなくて…」



心底不思議そうな梓に、苦笑を返すしかない。

とその時、ポアロの入り口が開き、小さな影が二人の前に立った。



「コナンくん…」

「安室さん、もしかしてシノブさんを探してるんじゃない?」



いつもの無邪気なそれと違い、子どもらしくない、難しい表情を浮かべている。



「コナンくん、なんでそれを…」

「シノブさんは、多分、今は連絡が取れないよ。えーっと、プライバシーというか説明が難しいけど、今とってもややこしいことになってるんだ。」

「何か事件にでも巻き込まれたのかい?!」



コナンくんの目線に合うようにその場にしゃがみこみ、肩に手を置く。

眉間には深い皺が寄っていた。



「何とも言えないよ…。事件というか、命にはもちろん危険はないけど、安室さんにとってはそれに近いくらい大変なことかもね」

「!一体どういうことなんだい、キミは何を知っているんだ?教えてくれないか!?」

「僕には言えないよ。でも僕、安室さんのこと好きだから、ひとつヒントを出すね」



そういってコナンくんは俺の耳に手を当て、こそりと呟いた。



『シノブさんを見つけるには、みんながシノブさんがいるって分かってる場所には行っても意味がないよ。なぜなら、シノブさんは隠れているから。それ以外の場所を探してみてね』

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