パリピな赤井さん(前)
※口が悪い赤井さん出てきます。
「こんにちはー、赤井さーん?」
実家の玄関から原住民を呼ぶ。
時刻はお昼をとっくに過ぎているので寝ているはずはないのだが、出て来てくれない。
昨日連絡して今日行く事は伝えたはずなのだが…
不審に思いながらも勝手知ったる我が家にずかずかと入っていく。
「赤井さーん、いないのー?」
いないんだとしたら鍵くらい掛けて出てってよーと思いながら広い屋敷内をうろうろと彷徨う。
…本当に寝ているのだろうか。
まさか、と思いつつも赤井が自室に使用している客間の戸を叩いた。
「赤井さーん?」
呼びながらドアに耳を付ける。
ごそごそと何かが動く気配はする。
ということはやはり中にいるのか。
「開けますよー?」
「アー…Wait. I change my clothes right now.」
カチャ、と控えめに開けた隙間から、流暢な英語が聞こえて来る。
3/4ほど開けたドアから覗く大きなベッド。
「はい?Why is it the nude?」
「When I sleep, it's always the nude.」
思わず返してしまったが、堂々と就寝時裸族宣言をされても困る。
幸い彼はまだシーツに半分包まっているため、決定的なものは見えていない。
「っていうか、今まで寝てたの?あと早く服着て。」
ドアを数センチ開けたまま喋る。
ごそごそとベッドを抜け出す音が聞こえるので、着替えてはくれているらしい。
「なに言ってる。お前が寝かせてくれなかったんだろう。」
「…はあ?」
「…ん?」
夢の話にしても生々しいことを…と顔を顰めたシノブだったが、赤井自身も疑問の声を上げたことにより、何かがおかしいと感じ始める。
「…なぜお前が日本語を喋ってるんだ?母国語も満足に喋れないビッチが。」
「…はあああああ?」
思わず大きな音を立てて開けたドアの先には、明らかにシノブの知る赤井よりも幾分年若い赤井?が半裸でその場に突っ立っていた。(辛うじて下は履いたらしい。)
「…ん?」
「…ん?」
お互い顔を合わせてしばし固まり、とりあえず下に降りてくるように伝えた。(もちろん上も着てこいと伝えた)
その間に弟を呼び出し、3人分のコーヒーを淹れることにする。
一体なにが起こってるんだろう。
赤井に流暢な英語で話しかけられたと思ったらビッチ呼ばわりされ、一回蹴り飛ばしてやろうと思ったらいつもの赤井じゃなさそうな赤井がいた。
いや、いつもの赤井じゃない、というよりは、年若い感じ…。
そう、まるで15歳くらい若返ったんじゃないかと思うくらいだ。
と考えたところで一抹の不安を覚え、お隣さんに連絡を取る。
「もしもし、哀ちゃん?いきなりでしかも単刀直入に聞くけど、赤井さんになにかした?」
『ええ。以前降谷さんを25歳ほど若返らせた薬があったでしょう?せっかくだからそれを改良してみたのよ。』
どうだった?と軽く尋ねる哀ちゃんに頭を押さえる。
れーくんを生んだ薬か…。
れーくん達は可愛かったが、おそらくあの赤井は可愛くないだろう。
「…一瞬しか見てないけれど、たぶん15歳くらい若返ってるわよ。言動が24〜5歳には思えないし…いや、わかんないけど」
『そう。たぶんすぐ戻ると思うけれど、何か変わったことがあったら教えて欲しいわ。』
じゃあ、と軽く言って切られた通話。
これで私が来なかったらあの姿で好き勝手してたんじゃないだろうかと胃が痛くなる。
コーヒーの良い香りが漂う中、遠い目をしていたところにちょうど赤井が階段を降りてきた。
「ああ…どうぞ座って」
「…ここはどこなんだ?」
カウンターを指すと、躊躇いながらも大人しく座ったところを見ると、やはりまだ警戒心はそれほど養われていないようだ。
すっとブラックでコーヒーを差し出す。
「ここは私の実家で、未来の貴方が一時的に住んでいる場所よ」
自身も隣に腰を下ろし、コーヒーを啜った。
赤井はブラック、シノブは砂糖とミルク入り。
いつも赤井が好んで飲んでいるコーヒーは、今の赤井の口にも合ったらしく、うまい、と言いながら飲んでいる。
「?どういうことかさっぱりわからん」
「いや、まあそうでしょうね…今度の薬は記憶まで後退させるみたいだし…」
「薬?…よくわからんかもしれんが、全部話してくれ、やりとりが面倒だ。」
眉を顰める赤井に、隠せるものでもないし、仕方ないと先ほどの哀から聞かされた説明を、できるだけわかりやすく(といってもファンタジーな話だが)してやった。
「ホォー…それで、FBI捜査官である俺はその組織を調べるため、キミの家で厄介になっていると?」
「そうね。あと訂正するけど、私の家は別にあるから、ここは私の実家よ」
あまりショックを受けた様子もなく、じろじろとこちらを見てくる赤井に、不快感を露わに頬杖をついて返してやった。
なんでこんなに冷静なんだ?
若い赤井さんは馬鹿なのか?いや、それはないか…。
「理解したの?ちゃんと状況飲み込めてる?」
「今の話が本当かどうかは別として、説明は理解したつもりだ」
はっきりした物言いに、シノブは溜息を吐く。
今の話が嘘だとしたら、赤井は私のことを、眠っている間に誘拐してきた不審な女だとでも思っているのだろうか。
それにしても問い詰めたり、逃げ出したりする気配もない。
私の怪訝な表情を読み取ったのだろう、赤井が少し小馬鹿にしたように口端を上げ、言い放った。
「今の話が嘘だとして、アンタが俺を連れてきた痴女だとしても、さすがにその細腕にやられるような軟弱な身体はしていないからな。特に何も問題だとは思っていない。」
お世辞じゃなくアンタは今までヤってきた女の中でもとびきりに美人だし、相手をしてやってもいい。
そう言ってシノブの腰と頬に手を添えた赤井。
「あか―」
呆れた表情しかできず、少しキツくお灸を据えようと口を開いた時、真横から飛んできたサッカーボールに、目の前の身体が綺麗に吹っ飛んだ。