YOU
横浜海洋大学(Y O U)校門前
「YOUといえばここじゃないかってことだけど…そうなると”CRY”は…」
「横浜犯罪研究会…ですかね」
犯罪研究会―
聞くからに怪しい感じがするが、YOU CRYと言えば今のところここに思い当たったのだ。
「…あ、降谷さんちょっと待って」
キャンパスを進みかけた降谷を引き留め、バックの中からスマホを取り出す。
「もしもし?コナンくん?」
『シノブさん?いまどこにいるの?』
着信の主はコナンだった。
あまり焦った様子もないところを見れば、警察からは無事解放されたんだろうか。
「それはこっちの台詞よ…依頼人から警察に掴まったって聞いたわよ?」
『あー…それは事情を話したら解放された。今はおっちゃんが一人で調べたいことがあるらしくて服部と2人なんだ』
「平ちゃん?平ちゃんもそこにいるの?」
大阪で事件をバリバリ解決しているはずの彼がなぜ関東に…と考えかけたが、彼は事件や依頼があれば日本全国飛び回る男だ。
きっと、小五郎や安室にも声を掛けたように、西の高校生探偵の服部平次にも依頼が来たのだろう。
『ああ。服部と一緒に横浜海洋大学に向かってるところだ』
「そうなの?私達もちょうどキャンパスに入ろうとしたところよ」
『はぁ?ちょ、早すぎねーか!?』
「何言ってんの。私と降谷さんを誰だと思ってるのよ…。貴方達2人には負けないわよ」
にやりと笑って話しているシノブに、降谷は少し誇らしげだ。
推理は正直、高校生探偵コンビには敵わないかもしれないが、自分達には専門的な部分も含め、彼らより知識がある。
『色んな意味でシノブさんたちには敵わないよ…じゃあもうすぐ着くから!』
「あっちょっと!…待っててくれってこと?」
通話が切れた画面を半眼で睨みつける。
まあまあ、と降谷が宥め、結局しばらく校門前で待つこととなった。
「…あれ?」
「どうしたんです?」
「いや、知ってる子が…」
駐車場の方から歩いて来る彼。
大学に入るのだろう。
真っ直ぐにこちらに向かってくるのに、私を見ても反応がない。
気付いていないわけはないのだが…。
「白馬くん?」
シノブの視線と呟きに、降谷も彼に気づいたようで、視線が険しい。
まさか、あの時の白馬くんとの出会いのあれこれを覚えているのだろうか。
「忘れてませんよ」
「ひっ!心を読まないでよ、怖い!」
そうこうしているうちに、彼が目の前に来た。
「白馬くん」
「…え?」
軽く手を挙げて合図すると、軽く目を見張った。
その様子に、もしかしたら忘れられていたのだろうかと不安になる。
もし忘れられてたら、私、凄く寂しい女じゃないか?
「あの、もしかして覚えてないの?工藤シノブだけど…」
「え、いや、忘れるわけないじゃないですか。シノブさんほどお綺麗な方は、一度お逢いしたら忘れることはできませんよ…」
初めてあったときのようにキラキラオーラを発し始めた白馬くん。
反対に半歩後ろにいる降谷さんの顔が怖い。
白馬くんは降谷さんが怖くないのだろうか。
「で、白馬くんはここでなにを?」
「ああ…お二方と同じ理由かもしれません」
そう言って白馬が袖を捲る。
そこには見慣れた機械。
百聞は一見にしかず。
白馬も名の知れた高校生探偵だ。
服部が呼ばれているのではあれば、彼がいてもおかしくない。
「なるほどね…。で、ヒントを解いてここまで来たのね。」
「はい。お2人も、キャンパスの中に進もうとしていたのでは?」
「ええ、そうなんだけど…もうすぐここに西の高校生探偵とキッドキラーの小学生も来るのよ」
「…へえ、そうなんですか」
立ち話をしていると、降谷がシノブの背後を指す。
そこには見慣れたシルエットが、陽を背負って走って来ていた。
「悪いなー、姉ちゃん!遅なってしもて!」
「平ちゃん、久しぶりね。いいのよ別に。5分くらいなんてことないわ。」
少し息を切らして走り寄った2人を笑顔で出迎える。
「安室さん、シノブさんごめんね、待たせて!」
「ん?安室さんって…あーーー!!あんときの姉ちゃんの彼氏!」
「おい!安室さんに指差すんじゃねぇ、失礼だでしょ、平次兄ちゃーん」
コナンが可愛らしく謝ったかと思うと服部が降谷に指を突き付ける。
もちろん降谷はにこにこしているが、それがまた怖いと分かっているにはこの場には姉弟しかいない。
「やあ服部くん。確かに僕はシノブさんの恋人だよ。だからあんまりシノブさんにべたべたしないでね?」
笑みを絶やさずに告げられた言葉に、シノブを除く男3人が青褪めた。
(ねえ、早くCRYに行かない?)
(そうですね。ほら、君たちも来るんだろう?そんなところに突っ立てないで…)
(((はい…)))