大きな白い鳥
ホテルだけあってかなり広いが、迷わず降谷とシノブは歩みを進めようとする。
「!降谷さん…」
「ええ、誰かいますね。ホームレスでしょうか…。」
それとも…と続けようとした言葉は、無防備に開いたドアによって続くことはなくなった。
「あれ…兄ちゃん達、こんなところでなんか用か…?」
「…ええ、依頼でこのホテルのことを調べている探偵です。」
ぼうっとした様子で警戒心もなく近づいてくる男に、降谷が人好きのする表情で話しかける。
男は、へぇと物珍しそうな目に変えた。
「見たところ、貴方はこちらのホテルで住んでおられるんですかね…」
「ああ、そうさ。来週取り壊されるんで、今は次の住処を探してるところさ」
「じゃあ、このホテルで最近不思議なことって起こってないかしら」
予想通りホームレスだという男に事情を聞くことができそうだ。
男はうーんと唸ったかと思うと、すぐに言葉を続けた。
「そういえば…真っ白いデカい鳥が飛んできたことがあったっけ」
「大きな白い鳥…?」
「太陽と俺の前を横切ってったんだよ」
白い大きな鳥…それだけではよくわからない。
降谷とシノブは顔を見合わせ、首を捻った。
「他には何かありませんでした?」
「ううーん…あー、そういえば、その日は珍しくホテルの前に変な車が停まってたな。あと、不動産屋が来て、そこの地下室を閉めてったな」
「変な車…というのはどう変だと感じたんです?」
降谷が男に質問を重ねる。
男は素直に言葉を続けた。
「滅多にここには車なんて来ないんだ。もちろんそれだけじゃなく、その車が夕方には古い中古車に変わってたんだよ。」
「…なるほど。ありがとうございます。ちなみに地下室というのは…」
「そこだよ。鍵は掛かってるけどな」
そう言うと男は用があると言ってさっさと外に出て行った。
降谷はライトで地下室の入り口を照らす。
「どうしましょうかね…」
「…あれ、上の通気口から入れないかな」
シノブが入り口の上にある通気口を指さす。
「いや、さすがにシノブさんでも難しくないですか?」
「うん…そうね。でも入るのは私じゃなくて…コナンくんよ」
シノブがそう言うと大差なく目の前にコナンが現れた。
思わず降谷はコナンを凝視する。
「え…なに?安室さん」
「ああ、いや…グッドタイミングだなぁと思って」
「?なにがグッドタイミング…」
頭に?を浮かべたコナンを、シノブがさっと抱きかかえる。
うわっという悲鳴と楽しそうな笑い声が地下に響く。
「コナンくん、この中に入りたいんだけど、通気口から行けない?」
「へ?あ、ああ…ちょっと待って」
一瞬目を瞬かせたものの、すぐにコナンは伸縮ベルトに手を掛ける。
「2人とも、ちょっと危ないから離れてて」
「わかったわ」
「…例の観覧車でも使用した博士の発明品ですね」
興味津々でコナンの手元を見ている降谷に苦笑いを浮かべるコナン。
ボタンを押すと、ガシャッと大きな音を立てて通気口の入り口が外れた。
「コナンくん、僕が持ち上げるよ」
「ありがとう!」
「危なかったら無理しちゃ駄目だよ」
今度は降谷に持ち上げられ、コナンはするりと中に姿を消した。
そして1分もしないうちに中から鍵を外す音がする。
「ありがと、コナンくん」
「どういたしまして」
コナンに促されるまま中に入る。
なるほど、昔ホテルで使用されていたであろう器具や物品が無造作に置かれている。
「とりあえず調べましょうか」
「ええ」
3人でロッカーや引き出し、戸棚などを調べていく。
シノブはスマホで現場写真を押さえていく。
「そういえば、さっきのホームレスのおじさんが言ってた大きな白い鳥ってさ」
「ホームレスのおじさん?」
「ああ、コナンくんが来る前にホテルにホームレスの男がいてね、最近の出来事を聞いていたんだ」
手を止めていなくても3人の頭では常に情報整理が行われている。
コナンは、へえ、と返事を返した。
「大きさも鳥の種類も、おじさんは言ってなかったけど…大きな白い鳥が太陽を横切って飛んできたって言われてパッと頭に思いついたんだけどさ…」
「!!安室さん!シノブさん!これみて!」
シノブが続けようとした言葉はコナンの声に遮られる。
声色からして何か大きな物を見つけた様子に、2人はコナンの元に駆け寄った。
「ボストンバッグが入ってたんだけど…」
3人の目線はその中身に釘付けになった。
「目出し帽に手袋他…うーん、完全に強盗グッズね」
「強盗か…」
3人はこれ以上は情報はないと判断し、ボストンバッグを持ちロビーへ戻った。