誓い
「ああ…やっぱりないな」
「なにがですか?」
通路奥にたどり着き、安室さんは何かを探しているようだった。
「いえ、ここでね、俺が起爆装置を解体したんですよ」
「き、起爆!?」
消火栓の位置が変わってるんだな、と何事もないように呟く。
あれ?そういえば安室さんの一人称って俺だったっけ?
「もちろん解体できた訳なんですが…」
「そ、そうですよね…」
「その解体の途中で、この施設の電源が全て落ちてしまったんです。」
文字通り目の前が真っ暗でしたね…なんていう彼にどう反応していいのか困ってしまう。
しかしそんなシノブの困惑を感じ、答える必要はないと言うように安室が言葉を続けたので大人しく聞くことにした。
「その時はもう少しで解体できるというところだったんです。いつランプが点き、起動するかわからない中の暗闇は、俺の心も一瞬で黒く塗りつぶしたんです」
赤井とコナンくんに任されたというのもあるが、俺の中に、心残りがあった。
まだ死ねなかった。
彼女の泣き顔が瞼の裏に焼き付いていた。
「そんなとき、貴女が現れたんです」
「私が…?」
暗闇の中光を持ち、何事も無かったかのように俺が知る美しく頼もしい表情で。
隣にいるから、と言ってくれた。
「一度は俺が泣かせてしまったんです。なのに、貴女は俺の腕の中に飛び込んできてくれた。」
「…あのときは…安室さんが…じゃない、でも、だれ…安室さ、ん?」
「ええ、『俺』です。以前東都水族館に行ったことがあるとシノブさんに言いましたが、正確には『ここ』です。」
ここで、貴女と想いが通じ合ったんです。
揺れる彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。
不安そうにこちらに伸ばしかけた手を取った。
「貴女が、隣で戦ってくれると言ってくれました。俺も、貴女を守り、隣で戦うと誓ったんですよ」
彼女の乱れた前髪をそっと除ける。
小さな名探偵とそっくりな綺麗な青の瞳には、涙の膜が張られていた。
「ああ…最近俺は貴女を泣かせてばかりですね。」
「…いつの間に、こんなに涙脆くなったのかしら」
ぽろりと零れた涙を優しい指が掬う。
見上げた先には、見覚えのある優しい顔があった。
「思い出せましたか?」
「まだ、もうちょっとぼんやりしてるけど」
「俺のことは?」
どんどん雫が零れて頬を濡らしていく。
それをハンカチで拭いながら、その表情を覗きこんだ。
「意地悪ね」
「すみません。」
そう言ってぎゅっと自分の背に回される手を感じ、降谷は幸せに目を閉じた。
「…しかし、ゆっくりと余韻に浸る暇はないようですね」
「二人分の足音、先の分の軽さは子どもね」
降谷とシノブはまたお互いの手を握り直した。
見慣れた姿が通路の先から現れる。
「安室さん!シノブさん!逃げて!!」
走ってきたコナンの後ろから銃声が響く。
コナンと犯人との距離はあるようだが、危険なことに変わりは無い。
コナンは持っていたスケボーに乗り、一直線に通路を走ってきた。
「コナンくん、警視庁は?」
「僕が犯人をここにおびき寄せてすぐ、出入り口は目暮警部に頼んで包囲してもらってる!」
「なるほど、下手に逃げられるよりも、袋のネズミにしてしまおうってわけね」
安室との会話に入ってきたシノブに、ぎょ、とコナンが目を見開く。
「な、シノブさ…記憶が…!?」
「その話は後だよ。犯人のお出ましだ。」
3人はコナンが現れた先を見やり、犯人が出て来るのを待った。