一緒に
現在の時刻は午後5時を回ったところだ。
今はまだ明るいが、少ししたらどんどんと日が落ち、暗闇に包まれるだろう。
降谷はシノブの手を引いて、水族館のエリアから走り抜け、中央エリアにあるテントの陰に隠れた。
幸いテントの中では射的や的当てなどのゲームをする客で賑わっている。
先ほどの弾痕と自分の髪を掠めた角度、方向からしてここにいればすぐには追ってこれない筈だ。
「安室さん…一体どうしたんですか…」
「シノブさん、落ち着いて聞いてください。貴方は命を狙われているんです。」
「命を…?」
外の様子を窺がいながら、シノブに現状を伝える。
急に命を狙われていると言われた彼女は怯えるだろうかと顔色を窺うと、美しい顔に眉間に皺を寄せていた。
「さっきのあれは銃弾だったのね。けれど軌道がかなり高い位置だったから、もしかして相手はライフルでも使っているのかしら。」
「…シノブさん?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
彼女を呼ぶと、はっとしたようにこちらを見た。
「あ、す、すみません。私は何者かに狙われているという話でしたね。何かしらの事件に巻き込まれているということですか?」
「え、ええ…。シノブさんが記憶を無くすきっかけとなったのが、連続殺人事件に巻き込まれたからなんです。」
「その連続殺人は無差別ですか?それとも私に関係がある…?」
「いえ…」
シノブは深い溜息を一つ吐き、ハンドバックから取り出したヘアゴムで髪を後ろの高めの位置でまとめる。
「安室さん、私は犯人の顔を見てしまったんですね。」
すっと細られた瞳は、降谷がいつも見てきた彼女の、何かを覚悟するような瞳。
先ほどまでの彼女との決して小さくない変化に少なからず降谷自身動揺していたが、反射のように彼女の手を強く握りなおす。
「貴女が出て行けば済むという問題ではありませんよ」
「…私が出て行って殺されてしまえば、犯人の顔をみた人物がいなくなってしまうから警察も困るでしょうね」
「っそういう問題じゃないだろう!」
シノブがビクリと体を震わせた。
降谷は腕を引き、彼女をそのまま強く抱きしめた。
「毎回のことだが…なぜ俺を頼ってくれない!?俺が守ると言っただろ!」
「安室さ…」
「大体!俺が貴女の傍を離れることで貴女を守ろうとしていたとき!それでも俺の隣に立とうとしてくれたのは、他でもないシノブさん!貴女でしょう!」
ぎゅう、と自分を抱く腕に力が入る。
懐かしいような暖かなぬくもりに、シノブは目を閉じた。
「安室さん…」
「行かせませんよ。」
耳障りの良い、程よく低い声が鼓膜を震わせる。
シノブは一呼吸置いて、開いていた片手で安室の口を覆った。
「…安室さん、ごめんなさい。もう少し、もう少しで…安室さんのことも、全部、思い出せそうな気がする。危険かもしれないけど、でも…この機会を逃したくない!」
「っしかしそれは許可できないと…!」
「だから、安室さんも、一緒に戦ってくれませんか」
その言葉に、降谷の双眼が見開かれる。
しかしすぐに返事の代わりに腕を解かれる
「捕まえるつもりですか」
「どうかな…コナンくんが目暮警部達を連れてきてくれるんでしょう?粘れないかな…?」
自信なさそうな言葉とは裏腹に、目の前の彼女は笑って自分に問いかけるのだ。
いつもいつも無茶をする彼女。
しかしそれを守り、共に立つのが俺だ。
「お手をどうぞ、シノブさん」
「安室さん、私と、運命を共にしてください。」