「なぁ、何でお前逃げねぇの?」
「……は?」
唐突にベルに訊かれた。
私はベルを見たまま固まってしまう。
しばらく見つめ合った。
訳がわからない私は何も言えずにベルの言葉を待った。
だけどベルは一向に口を開こうとはしない。
王子だからか?
「何、どういうこと」
「だから、何で真白は逃げねぇの?」
「何処から?誰から?」
「此処から。……オレから」
何度か瞬きをする。
ベルは至極真面目に訊いているようだ。
私は自分が今置かれている状況を改めて考えてみた。
ある日路地裏を歩いていたら突然このベルに連れ去られた。
で、ベルの身の回りの世話や何やをさせられている。
メイドのようなことをしているだけだ。
何かおかしいことがあるだろうか?
「何故逃げる必要があるの?」
「……は?」
「は?」
「ししっ、お前……変な奴だな」
私は変なのか?
ベルをじっと見つめてみる。
するとベルは私に近づいてきて突然横抱きにした。
驚く間もなくベッドに座ったベルの膝の上に座っていた。
何故かベルの方を向いている。
「真白、俺から逃げねぇの?」
「逃げる必要はないと思うけど。それに、逃げたって面倒なだけでしょ」
「面倒?」
「ヴァリアーのこと知っちゃったから、追いかけ回されて最終的に殺される。それなら此処にいる方が楽じゃない」
なるほどという顔をしながらベルは私を見る。
何かあるのかよくわからなくて首を傾げると何故かキス。
今日はわからないことが多すぎる。
きっと抵抗したら何かされるから大人しくしておこう。
少しして唇が離れても、ベルはまだ私を見ている。
「何?」
「好き、真白」
「え?」
「ししっ、二回は言わねぇからな」
ぎゅっと抱きしめられる。
またも訳がわからなくて私はフリーズ。
その間にもベルは、真白のいい匂い、だとか、真白柔らかい、だとか一人でぶつぶつ言っている。
一度記憶を巻き戻してみた。
ベルはあの時何て言った?
……好き、って言った、確かに言った。
「ベル」
「何?」
「私も好き」
「……真白?」
がばっとベルを引きはがして言った。
今度はベルが驚いていた。
私からキスをすると、どうやら納得したみたいだった。
ししっ、っていつもの変な笑い方をしてまた私を抱きしめた。
(2012.03.10)
遅すぎですがベルお誕生日記念でした!