いつもそうだ。アイツはふらりと現われては、ふらりと消える。いつ来たかいつ去ったかなんてわからねぇ。アイツに訊いても答えてくれねぇ。ボスにも訊いてみたが、ボスも答えてはくれなかった。俺が知る必要はねぇってかぁ?



「スクアーロ。入ってもいい?」

「真白かぁ。入れぇ」



扉の向こうに真白の声が聞こえた。きっとまた、どこかからふらりと現われたに違いねぇ。
返事をしてから少し間があって、扉が開いた。振り返るとそこに真白の姿は既になくて、気づけば真白は俺に抱きついていた。



「どおしたぁ?真白」

「会いたかった」



いつもそうだ。コイツはふらりと現われては俺に抱きついてきて、決まって必ず“会いたかった”と言う。ずっと此処にいればいいじゃねぇかと言えば、そういうわけにもいかないのと、答えが返ってきた。



「真白、」

「スクアーロの、匂いがする」



真白の腕の力が強くなる。俺も強く真白を抱きしめた。真白は、静かに泣いているみたいだった。しばらく抱き合ったままでいると、不意にスクアーロと真白に名前を呼ばれた。



「私のこと好き?」

「好きっつうより、愛してるぞぉ」

「よかった。私も、同じ」



いつもそうだ。真白はふらりと現われては、俺に想いを確かめる。まるで昔からそうしていたかのように、同じ質問、同じ答え。俺のこの想いは、いつまで経っても変わらねぇ。そう何度も真白に言ったはずなのに、真白は必ず確かめる。変わらねぇと知りながら、確かめてるのかもしれねぇ。



「スクアーロ、」

「なんだぁ?」

「眠い」

「……真白?」



そう言ったっきり、真白は眠っちまった。俺にぎゅっと抱きついたまま。そんな真白をベッドまで運んで寝かせた。静かに眠っていた。ただ、真白の右の頬に一筋の傷痕を見つけちまった。これは紛れもなく剣の傷痕だ。俺は真白の頭をそっと撫でて髪に指を絡ませてから、風呂へと向かった。



「入るよスクアーロ」

「う゛お゛ぉ゛い……ちょっと待てぇ!」



いつもそうだ。真白は俺が風呂に入ってる間に目覚めて、俺が風呂に入ってるのを知りながら真白も風呂に入ってくる。慣れたとはいえ、やっぱり真白の裸を見んのは……。



「入ってくるなって何度も言っただろぉがぁ」

「出来るだけ、長く一緒にいたいの」



後ろから俺の腰に手を回して背中に顔を埋める真白。俺の背中には、柔らかい感触。真白の声は、いつになく淋しそうで哀しそうだった。腕の力も今日初めて抱きついてきたときより弱い。何かあるんだと、俺の直感が言った。



「スクアーロ、」

「なんだぁ?」

「髪、伸びたね」

「……真白もなぁ」



いつもそうだ。真白は自分を隠す。昔ずっと一緒にいた俺にさえ隠しやがる。まさか初めはあの真白だなんて思いもしなかった。けど真白と一緒に過ごしていくうちにわかった。あの真白だと。あのときも真白は、ふらりと消えちまった。



「私だって、気づいてたの……?」

「気づかねぇわけねぇだろぉ」

「そう、だね」

「どれだけの時間、真白と一緒にいたと思ってんだぁ」



真白の腕をほどく。俺を見上げた真白に、キスをした。昔と変わらない真白の味がした。



それは、真白からの初めてのことだった。






(私、明日死ぬかもしれない)
(な゛……っ?!)
(任務なの、ボスが行けって)
(あんのクソボス……!)



(2009.09.08)



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