インターホンを押す、鳴る……が、誰も出ない。いや元々出る奴はこの家には一人しかいないが。少し待ってもう一度鳴らしてみる。…………やっぱり出ない。



「あ、」



ドアノブに手をかけて引いてみたら見事に開いた。無用心だなオイ、鍵くらいかけておけよ。とりあえずお邪魔しますと言って家の中に入る。一応鍵は開けたままにしておくことにする。もし奴が鍵を持ってなかったら大変だし。
一旦外したイヤホンをまたつける。相棒であるミュージックプレイヤーの再生ボタンを押す。流れてくるのは、



「やっぱ変わらないよね」



部屋の中なんてそうそう変わったりはしない。まずリビングに行って誰もいないことを確認すると、奴の自室に入った。扉を閉めてヒータのスイッチをオンにする。だって、寒い。そのままベッドに倒れ込んだ。




家を空けてから二十分程で戻ってきた。特に変わったところはない。だが家の中が仄かに暖かい。誰かいるのか?…………、この靴は、



「やっぱり真白か」



おい真白、と声をかけてみるが真白は起きる気配が全くねぇ。人ん家に勝手に入り込んで暖房までつけて、何考えてんだ。まぁ、真白だから許せるが。



「こいつ……音楽聴いてやがる。そりゃ起きねぇな。ったく、真白の奴、布団も被らねぇで寝ちまいやがって」



顔にかかっている髪を掬ってみるとイヤホンとコードが目に入ってきた。よくよく見ると、両手にミュージックプレイヤーを大切そうに握っている。顔を覗き込むと、幸せそうな表情をしていた。そっと手を解いてミュージックプレイヤーの画面を見ると、再生されたまっまだった。



「走れ、か。真白、俺のキャラソンとかいうの訊いてやがる。しかも一曲リピートでだ」



幸せそうな真白に口づけた。そんなにも俺のことを想ってくれているなんて、考えもしなかった。だから余計に嬉しくて、真白は寝ているのに顔を見られるような気がした。



「真白、起きろ。おい、真白、真白」

「ん……?ごくで、ら、はやと……?」

「ああ、俺だ。起きろ真白」

「……そ、か」



音楽を止めて左のイヤホンを取って呼びかけると、少しして真白は起きた。俺の顔を見て不思議そうな顔をしたがすぐに何ともいえない表情になった。



「寝るなら、布団入れよ」

「怒らない、の?」

「何に対してだよ?」

「勝手に家に入ったこと」



誰が怒るかよ、ばーか。
そう言ってやると、真白はベッドから起き上がって俺に抱きついてきた。俺は何も言わずに抱きしめ返した。



「ごっきゅんの曲聴いてたら、頑張ろうって思えるの」

「ああ」

「向こうに帰りたい気持ちがないわけじゃなくって、でも私はごっきゅんが好きで、だから戻りたくなんてなくて、どうしたらいいかわからなくって。ごっきゅんの曲聴いたら、何となく、すっきりした」

「……真白、」



泣いてはいないみてぇだが、今にも泣きそうな声だった。
真白はもしかすると、いつか真白のいた世界に戻っちまうかもしれねぇ。
俺はそれが不安で不安で仕方なくて、でも真白の前では心配かけねぇようにって普通に振舞ってきた。だけど真白も不安なのは同じわけで。



「もし、私が向こうに戻っても、私、絶対帰ってくるから。ごっきゅんの元に帰ってくるから」

「ああ。何としてでも帰ってこい、真白」



だから二人で、不安に押し潰されないように必死で足掻いてもがいた。




真白のいねぇ生活なんて、もう、考えられねぇ。



(2010.11.21)



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