久しぶりに獄寺隼人と会話をした。私たちは付き合っていて恋人という関係にあるものの、ここ一ヶ月は一言も話をしなかった。デートはおろか、学校で目を合わせることさえない。
話しかけてきたのは隼人の方だった。どうやらこの間私が山本武と街を歩いていたのを見たようでそれが気に食わなかったらしい。



「別にやましいことは考えていないわ」

「じゃあ真白何で野球バカと一緒にいたんだよ」

「商店街で会ったから友達として会話をしていただけよ」

「そうは見えなかったけどな」



眉間に皺を寄せて隼人は私の目をじっと見る。私はその隼人の真剣な疑いの目を見つめ返すだけ。嘘はついていないしつく必要だってない。こんなところで嘘をついたって無駄だ。



「ふぅん。じゃあそうなんじゃないの?」

「真白は野球バカが好きだってことか」

「信じるか信じないかは隼人次第だけれど、違うわ」

「……嘘はついてねぇな」



当たり前よと返せば真白に当たり前はねぇときっぱり言い切られた。まぁ確かにそうだけれど。私に当たり前はないし、当たり前は通用しない。……だけどきっと私にも当たり前はある。



「嫌いになった?」

「ああ、嫌いになった」

「じゃあ別れる?」

「別れねぇ」



素直じゃないなと思いながらも隼人に口づけた。もちろん口づけだって一ヶ月ぶりだ。もしかしたらそれ以上かもしれない。
会話をしなくなって半月が経った頃から周りに別れたのかと何度か訊かれた。



「私、隼人が好きよ」

「何言ってんだ真白、今更」

「隼人みたいな人が好き」

「俺みたいな人?」



一応別れてはいないと答えたけれど隼人がどう答えたから知らない。どうやら隼人はこの一ヶ月の間に何人かに呼び出されたみたいだし。内容は大方告白。私の口づけを拒まなかったことからしてOKは出していないんだろう。



「適度に構ってくれて適度に放っておいてくれる人」

「別に適度に放っておいたつもりはねぇが」

「ふぅん。でも私にはちょうどよかったわ。余り構われると鬱陶しいもの」

「つまりこれからもそうしろと?」



そんなことはないわと返した。隼人はそうかと短く答えただけだった。
長い沈黙。私も隼人も目を逸らさない。隼人が私に視線を合わせてきたときから互いに一度も視線が外れていない。



「隼人が私と話をしたいなら私のところへ来ればいい」

「ああ」

「嫌ならこの一ヶ月みたいに放っていてくれてもいい」

「……真白は、」



隼人は呟いたけれどその続きはなかった。私は気にせずに隼人にもう一度口づけをしてまたねと言って西陽の射す教室を出た。廊下にも教室と変わらず西陽が射していて暑い。



「隼人?」

「真白お前、本当は構って欲しいんじゃねぇのか?」

「何を言っているの。私は構われるのが嫌いなのよ?」

「だからだ。構われるのが嫌いだからこそ誰かに構って欲しいんだろ?」



ちょうど日陰に入ったとき、隼人に腕を引かれて抱きしめられた。人はいない。一ヶ月前までより腕にこもっている力が強い。それほどに今隼人はそれを伝えたいのだ。懐かしい隼人の温もりに私の心が馴染んでいく。



「……そうね。そうかもしれないわ」

「教室で話してたとき、俺たち一度も目を逸らしてねぇ」

「ええ、逸らしていない」

「だからわかるんだ。真白、目が淋しいっつってる」



私にもわからない私のことをずばり言われて、私は隼人にしがみついた。もはや何で泣いているのかもわからない。隼人が私のことをこんなにもわかってくれて嬉しいからかもしれない。私にもわからない私のことを隼人が見抜いたことが悔しいのかもしれない。




本当ってしい。
   えたいの。
(隼人には何でも見抜かれてしまうのね)
(真白だからな)
(どうして隼人がこんな私を好いてくれたのかわからないわ)
(そんな真白だから好きになったんだよ)
(ただ重たいだけの私よ?)
(重くなんてねぇ。真白は、全然重くねぇ)



(2010.09.11)




遅れましたがごっきゅんお誕生日記念でした!



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