10代目の右腕だってのに、俺は一体なにやってんだ。

10代目の大切なお方を護れないだなんて……。




ある日のこと。

何処からか敵は現れて、俺と真白に攻撃を仕掛けてきた。

真白が戦えるわけねぇから、俺が戦った。

10代目の大切なお方――真白を護る為に。



「隼人くんっ!」



ボロボロになっている俺に、真白が駆け寄ってくる。

なんとか敵は殺ったものの、真白にはいくつか傷がついている。



「すまねぇ、真白……。また、護れなかった……」

「謝らないでっ!隼人くんは私を護ってくれたじゃない!私の為に戦ってくれたじゃない!敵、倒したじゃない!私、死んでないじゃないっ!」

「だけど……傷、」



真白には傷がついている。

少しでも真白に傷がついていれば、“護りきった”ことにはならねぇ。



「これくらいっ!これくらい、ころんでついた傷のようなものじゃない……っ」



真白の目から涙が零れ落ちた。

と同時に、真白は俺に抱きついてくる。

俺は抱きついてきた真白を、力の限り抱きしめ返した。



「すまねぇ、真白」

「謝らないでって、私言った」



ありがとう、なんて柄に合わねぇから、それを言う代わりに真白にキスをした。

何度も何度も、ありがとうの気持ちを込めて真白にキスをした。



「次は必ず護りきってみせる」

「うん」

「真白は10代目の大切なお方だからな。それになにより、俺は真白のことが好きだ」

「うんっ」



もう一度真白にキスをした。

長い長いキスを。


それから俺は、真白が言うから10代目の家へ行った。

其処で傷の手当てをしていただいて、真白の部屋にいることになった。


真白はずっと俺の隣に座っていた。

いや、逆かもしれねぇ。

俺がずっと真白の隣に座ってたのかもしれねぇ。


互いになにも話さなくて、時々目が合うとくちづけを交わした。

触れるだけの、短いくちづけを。



「隼人くん、ごめんね」

「真白……?」



沈黙を破ったのは、真白だった。


いつもの声じゃなくて、とても、とても辛そうな声だった。



「私いつも、隼人くんに怪我させてる」

「んなことねぇよ!ただ俺が勝手に、」



真白の方を見ると、真白が酷く哀しそうな顔をしていたから、言葉が詰まった。

こんなに哀しそうな顔をした真白を見るのは、初めてだ。


真白はいつも笑っていたから、泣いてるとかそういう顔はあまり見ねぇ。



「隼人くんは、私の為に戦ってくれてるんだってわかってるし、いつも感謝してる。だけど、私の為に戦って、傷つく隼人くんを見るのは辛いの……っ」

「真白の、真白の所為じゃねぇ。戦ってボロボロになんのは、俺が弱ぇからだ。だから、真白が思い詰めんじゃねぇよ。俺まで、辛くなっちまうだろ」



真白の頬を両手で包むようにして、零れ落ちる涙を親指で拭う。

俺を見つめる真白に、キスを落とした。


酷く甘い空気が、真白の部屋を取り巻いたような気がした。



「隼人くん」



長いキスのあと、真白が口を開いた。

真白を見ると、少しの間俺と見つめ合ってから、真白は続きを言った。



「ありがとう。大好き」

「俺は、」



愛してる、と真白の耳元で囁いて、真白を抱きしめた。






――もう俺は、絶対真白にあんな顔させたりしねぇ。



(2009.03.29)



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