武の匂いがする。

そう思ってゆっくりと瞼を持ち上げる。
見慣れた部屋。
視界に映る懐かしい世界。


此処は、武の部屋?


体を起こして部屋を見渡した。
間違いない。
此処は武の部屋だ。


「戻って、来た、」


ちゃんと声になる。
私はこの世界に戻って来たんだ。
何年ぶりだろう。
確か最初に私が来たとき、武も私も中学生だった。
中学二年。
今は高校二年。
ということは三年ぶりになる。


武はいつ帰って来るだろう。


そんなことを考えてベッドに倒れた。
次第に瞼が重くなる。
気づけば私は眠っていた。


音……?扉……?


何か物音で私は目を覚ました。
武かもしれないと、ベッドに腰掛けた。
足音が近くなる。
一度だけ深呼吸をした。




何となく朝から今日は何かありそうな気がしていた。
部活が休みで授業のあとすぐに家に帰った。
親父は今日はいない。


「ただいま」


小さく呟いて扉を閉めた。
いつもなら帰るとまずリビングに行く。
だけど今日は、部屋へ向かった。


……真白。


一度だって忘れたことがない。
俺の恋人。
この世界の人間ではないけれど。
それでも、俺は真白が好きだから。
だから真白を選んだ。
ノブに手をかけて深呼吸をした。
ゆっくりと押して扉を開ける。




扉の前で足音が止まった。
今にも心臓の音が聞こえそうだった。
高まる緊張。
会えるかもしれないという期待。


……武。


まっすぐ扉を見つめた。
ただじっと見る。
少しして扉がそっと開いた。
制服を身に纏った背の高い男が一人。




野球の試合のときでもこんなに緊張はしない。
それくらい、俺は緊張していた。
真白がいてくれたら。
そんな淡い期待が俺の中を掠めていく。


あれは、


見慣れた部屋。
制服を身に纏った華奢な女が一人。
こちらをじっと見て俺のベッドに座っている。
不意に目が合った。




その瞬間弾けるように彼女は彼に飛びついた。
彼は驚きながらも彼女の背中に手を回す。
二人は言葉を交わさない。
儘、時間は過ぎていく。
五分、十分……。


「、真白」
「武……」


彼が彼女の名を呼ぶ。
彼女も彼の名を呼ぶ。
目を合わせ、束の間見つめ合う。
引き合うようにキスをする。
ただ長く、触れるだけ。


「おかえり、真白」
「うん、ただいま、武」


強く抱き合う。
互いの存在を確かめるかのように。
これは現実だと実感する為に。




再開突然に。
(なあ、真白、いつ戻ったんだ?)
(ついさっき。武が帰ってくる数十分前くらい)
(……三年って長いのな)
(そうね。だけど振り返ると短いの)
(真白にまた会えるなんて、思ってなかった)
(私も。これからは武とずっと一緒にいられるといいな……)



(2011.07.21)




遅すぎですが武くんお誕生日記念でした!



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