嗚呼そうだ真白は俺の生徒なんだった。
「せんせー?」
「……、どうした?」
「どうしたは私の台詞ですよ。ぼーっとして、何かありました?」
「何でもないのな。ちょっと考え事してただけだ」
何でもないならいいですけどと真白は言う。
そんな顔で覗き込まれたら学校なのにも関わらずキスしちまいそうになる。
いや真白は確かに俺の恋人なんだけれど。
学校じゃ、流石にまずい。
デートだって夜にしかしないくらいだ。
「山本せんせーさ、」
「ん?」
「最近よくぼーっとしてますよね」
「そうか?」
そうですよと返されたから過去を振り返ってみる。
……が、特に何も思い当たらない。
今ぼーっとしていたことは確かだけれど以前も同じ風にぼーっとしていたのかは定かではない。
もし本当にぼーっとしていたのなら、それはきとほとんどが真白のことを考えていたんだろう。
「真白」
「はい」
「今から、空いてるか?」
「大丈夫です、帰宅部ですから」
笑って答える真白に、手伝って欲しいと短く伝え職員室から離れた。
横には真白。
少し歩いて着いた目的の特別教室には誰もいない。
こっち側には生徒も他の教員も余り来なくて静かだから集中できる。
理由は、それだけじゃないけれど。
「修学旅行のしおりの、ホッチキス留め」
「二人で、この量を?」
「嫌か?」
「いえ」
きりっとした返事をした真白は、教室の扉を閉めるとすぐにしおりの置いてある席に向かった。
俺はその前の席に座る。
用意した二つのホッチキス、幾つもの束になって積み上げられたしおり、二人きりの教室。
理性は持つが、歯止めが利かない。
「真白、」
顔を上げた真白にキス。
流石にこれだけは、限界に近かった。
真白があんな顔で覗き込んでくるから。
真白の所為ではないけれど。
「何度ここは駄目って言ったの、武」
「真白があんな顔で覗き込んでくるから、だろ」
「私の所為にするの?」
「そういうわけじゃねぇけど」
じゃあ何、とタメ口で話す真白に口元が緩む。
それを真白に見られて睨まれた。
好きだから仕方ない。(もう、何、さっきから)
(真白だってタメ口いけねーだろ?)
(っ、武が名前呼ぶから、)
(ほら、名前と敬語)
(これは武の所為でしょ!)
(俺の所為にするんだ?)
きりがない、とため息をついて真白は言った。
そのまま作業続行。
隙を見つけてはキスをした。
(2010.04.24)
武くんお誕生日記念でした。