……どうしよう。

顔が、今までにないくらい、物凄く近い。


右手は武の左手でぎゅっと握られてて……左手は、何も出来ずにただあるだけ。

私の頭の斜め左上辺りには、武が壁にひじまで腕をついてる。



「た……け、し、」

「何だ?」



焦りまくりの私とは裏腹に、武は至って冷静だ。

私が動揺していることを知ってか知らずか、私が名前を呼べば笑顔を見せてくれた。


ゆっくり、ゆっくりと、武の顔が近くなってくる。

ぎゅっと軽く強く、目を瞑った。



「真白、」

「っ……」



そっと、優しく触れた、それ。

ふわりと温かくて、とても落ち着いた。


嗚呼、武だ。


武に握られている右手に小さく力を込めて、握り返した。



「キス、嫌なのか?真白」

「嫌じゃ、ない」



触れる前のようにゆっくりと唇は離れた。

その瞬間に、武が言葉を発する。

だから、武の息が。


今にも破裂しそうな心を必死に宥めながら、私は武の問いに首を横に振る。



「、真白……」



再び重なる、さっきと同じように、ゆっくりと。



壊れそうな理性は、ただ壊れゆくままに。



(2010.04.22)



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