先輩後輩の助けを借りてわっちは遊郭を飛び出した。大好きな先輩と後輩だったが遊女はもううんざりだった。誰にも気づかれぬよう男に扮して大きめの鞄に己が使っていた、先輩後輩からもらった着物を包んで素知らぬふりをした。誰もわっちがわっちであることに気づかなかった。そのまま空港へ向かって話し言葉に気をつけながら飛行機に乗った。何処に行くかは決まってなかったが乗れる範囲で一番早く発つ便のチケットを頼めばそれはイタリア行きだった。
何時間かしてイタリアに着くとわっちは至るところをさ迷った。そして、



「日本の女か?」

「……そうじゃ」

「逃げてきたような顔をしている」

「ああ。わっちは遊郭から逃げて来た」



一人の長身の男と出会った。いかにもイタリア生まれイタリア育ちな感じが出ているにも関わらず男は流暢に日本語を話した。わっちとしては好都合にすぎないがこの男がわっちを拾ってくれるとは限らん。結局わっちは途方に暮れる。



「お前、名は」

「真白、でありんす」

「行く宛ては」

「ありんせん」



男は名乗らずにわっちの鞄を強引に取ってわっちの手を引いて歩き出した。わっちは訳も分からず引かれるがまま目の前の男についていく。悪い気はしない。寧ろこれは二度目の好都合だ。



「……此処は?」

「ヴァリアーの屋敷だ」

「ヴァリアー?」

「ボンゴレ特別暗殺部隊」



男は前を向いているから表情は見えないが長年の勘で眉を寄せたような気がした。だからそれ以上質問はしなかった。わっちにすれば世界はとてつもなく広い。何処に暗殺部隊があったって驚くようなことではない。



「驚かねぇのか」

「何に対してじゃ?」

「暗殺部隊だ」

「驚くことなどありんせん。わっちにとって……遊女にとって、世界はとてつもなく広い」



男は屋敷の中を歩きながら訊いてきた。何処に向かっているかはわからない。ただ何処かの部屋であろうことは確かだ。
やはり此処はイタリアで、日本のように屋敷に入るときに靴を脱いだりしなかった。



「此処を自由に使え」

「……?」

「行く宛てねぇんだろ」

「では遠慮なく」



着替えてもいいかと訊けば男は何も言わず荷物だけ投げて寄越して出ていった。結局名前を聞いていない。
まぁいいかと着替えている最中扉の向こうから声が聞こえた。扉を出て右の突き当たりを右に曲がった先の部屋に来い。そこが何の部屋かはやっぱりわからないが従うことには慣れている。



「何の用でござんしょう」

「入れ」

「……仲間、か?」

「そんなところだ」



扉を押した。部屋の中には各々別のことをしている男が五人。皆同じ服を着ている。だけどそれをやめてわっちのいる方を全員が見た。後ろから男が入ってくる。



「拾ってきた」

「ボスが?超珍しー」

「ボス?」

「……うるせぇ」



金髪の男の言葉を合図みたいに部屋の中の男たちがざわめいた。わっちの呟きはそれに掻き消された。
ボスと呼ばれた男の一言で静まり、その男はわっちを見た。何となく名乗れと言っているような気がした。わっちは遊郭にいたときのように床に正座をした。あの頃は畳だったけれど。



「真白でありんす。以後、よしなに」

「よしなに?」

「よろしくって意味なんじゃないんですかー?」

「うるせっ、んなことわかってるっつの」



その後、全員が名乗った。わっちを拾ってくれた長身のボスと呼ばれた男がザンザス。金髪の男がベルフェゴール。蛙の被り物を被っていたのがフラン。長髪の男がスペルビ・スクアーロ。サングラスをかけた変な髪型の男(?)がルッスーリア(見た目は男だけど中身は女みたいだった)。背中によくわからないものを背負ってる男がレヴィ・ア・タン。
部屋に戻ってからの記憶はないに等しい。たぶん歩き疲れて寝たのだろう。




それがザンザスとの始まりだった。




(2010.10.10)




XANXUSお誕生日記念、続きます。



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