応接室の扉が勢いよく開いては閉まったかと思えば一瞬にして真白が僕に飛び込んできた。何と強めに訊こうとしたけれどすぐにやめた。……真白が泣いていたから。普段は滅多に泣かない真白が泣いている。



「どうしたの?」

「……っ、」



真白は首を横に振るだけで何も答えない。泣いているから答えられないのかもしれないし答えたくないのかもしれない。どちらにせよ今は答えが聞けないから真白をぎゅっと抱きしめた。泣き止むまでこうして宥めていようと決めて。



「きょ、うや、」

「大丈夫かい真白?」



しばらくして真白が僕の名前を呼んだ。普段は口にしないようなことを言って真白を心配すると真白は大丈夫と消えそうな声で言った。きっと大丈夫なわけがない。涙で濡れた真白の頬を拭ってやる。真白は眉を下げてまた泣き出しそうになった。



「何があったの?」

「来た、の。私のところに、見たくなかったのに、会いたくなかったのに、アイツが、来たの」

「そう」

「恭弥……っ!」



深くは訊いてはいけないような気がして何も訊かなかった。もう一度抱きしめると真白はまた泣き出した。今度も真白を抱きしめたまま何も言わずにただ真白が泣き止むのを待つ。真白の言う“アイツ”が来ないようにと祈りながら。



「落ち着いた?話せる?」

「ん、」



僕の問いかけに小さく頷く真白。髪をゆっくりと梳いてやると真白は僕の学ランをぎゅっと握った。だんだんと落ち着いてきた真白をソファに座らせてその隣に僕も座った。真白の手が僕の手にそっと重なって真白は緩く力を込めた。



「前に、好きだった人。そいつが校門のところにいた。そいつには彼女がいて、叶わないってわかってたから諦めた。好きだったけど忘れたくて、必死に忘れようとした。高校に入って恭弥と出会って、せっかく忘れかけてたのに、思い出した。二度と見たくなかったの声聞きたくなかったの会いたくなかったのそれなのに……!」

「真白、」



また泣き出しそうな真白を抱きしめた。真白の小さな肩が小刻みに震えていた。ふわりと頬を包んでキスをすると目に涙を溜めて真白は僕を見上げた。落ち着かせようと僕は真白に笑いかけた。真白は眉を下げたまま。



「僕がいるでしょ」

「きょう、や?」

「真白を苦しめる奴は、咬み殺す」

「……あり、がとう」



眉を下げたまま真白は笑った。情けない表情だったけれどそれが真白の精一杯なんだと感じ取れた。




君の為なら悪役んで。
(でも恭弥、)
(何だい?)
(まだ、傍にいて)
(真白?)
(お願い……。恭弥といると、傷が癒えるの)
(……真白が望むなら、)


例えこの身が滅びようとも、

いつまでだって傍に、

真白の隣に。



真白の幸せが僕の幸せだから。



(2010.05.06)




一日遅れですが恭弥くんお誕生日記念でした。




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