遂に来た。
遂にやって来たのだ、誕生日が!
誰の誕生日って?
それは……。
「ねー恭弥〜」
さっきからずっと、恭弥の名前を呼んでいる。
だけど、一向に恭弥は返事をしてはくれない。
「きょーやってばぁ」
恭弥の視線の先にあるのは、雑誌である。
なんでも、月に一回発行される風紀財団の雑誌なんだとか。
「きょーやぁ〜」
「何、さっきから。気が散って読めないんだけど」
やっと答えてくれた。
と思えば、冷たい台詞。
もう慣れたから、傷ついたりはしない。
恭弥は群れるのが嫌いだ。
だから、こんな言い方しか出来ない。
本当はね、とっても優しいんだよ、恭弥って。
「ちゅーしていい?」
ちゅっ、とリップ音が恭弥の部屋に響いた。
恭弥が私に、キスをした。
「そーじゃなくて!私からしたいのっ!」
「無理なことは言わない方がいいよ?」
恭弥の口角が、少しだけ上がった気がした。
たぶん、これは……気のせいなんかじゃない。
「今日くらい、いいじゃん。私の誕生日なんだから、ね?」
「僕の誕生日でもあるんだけど」
……それを言われちゃあおしまいだよ、うん。
ベッドに座る恭弥を、後ろから抱きしめる。
もちろん私はベッドの上。
「恭弥、」
「黙ってよ。もうすぐ読み終わるから」
恭弥の後ろから首を伸ばす。
不意をついてキスをしようとしたけど、逆にキスされた。
最強(最凶?)だからか、恭弥には隙がない。
「ねぇ、」
恭弥はパタン、と雑誌を閉じて、床に置く。
またリップ音をたてて、恭弥は私にキスをした。
「真白は、そんなにキスしたいの?」
「誕生日くらい、私からキスしてもいいでしょ?」
質問を質問で返す。
これくらいじゃ恭弥も、まだ拗ねない。
……はず。
「……ね?」
ダメだと言わんばかりに、恭弥は私にキスをする。
「真白」
「ん?」
「真白がどうしてもっていうなら、いいけど」
恭弥のその言葉に、私は口元が緩んだ。
と同時に、恭弥にキスをする。
ただし、と恭弥が続けたことに気づかずに。
「話、最後まで聞かなくてよかったの?」
「話?」
「まだ、続きあったんだけど」
「……それ、ほんと?」
こっちを向いている恭弥に、聞き返す私。
そんな私を見て、ニヤリと妖しい笑みを浮かべる恭弥。
「ただし、今日一日僕の言うことを聞くこと」
「……なんだ、そんなことか」
なんだとはなんだみたいな目で、恭弥は私を見る。
ドサッという音がして、私の視界が90度変わった。
目の前には、恭弥。
「何するか、わからないよ?」
「いいよ、別に」
私は、恭弥に押し倒された。
驚きもしないし、焦りもしない。
驚く必要も、焦る必要もないしね。
「恭弥が喜ぶなら、私は何でもする」
だって、恭弥が好きなんだもの。
「命令されてもいい。雑用押し付けられてもいい」
友達に同じこと言ったら、狂ってるって笑われた。
そんなに風紀委員長さんが好きなんだ。
とも言われた。
友達関係は、壊れていない。
「もちろん、恭弥になら犯されたっていい」
「ふぅん」
恭弥の右の頬に、左手を伸ばして、触れる。
その手をゆっくり引き剥がして、恭弥は私にキスをした。
「どうなっても、僕は知らないよ?」
「うん」
恭弥の為なら、私のこの身がどうなろうと知ったことじゃない。
跡形もなく消え去ったって構いやしない。
「愛してるよ、真白」
「私も」
私の初めては、私と恭弥の誕生日でした。
恭弥は、私を大切にしてくれました。
何度も、愛してると、その声で囁いてくれました。
(2009.05.23)
遅くなりましたが恭弥くんお誕生日記念でした。