私は、ボンゴレボス――ジョット直属の部下だ。
守護者とも秘書とも違う、別の特別な役。
簡潔に説明しろと言われるとだいぶ無理があるから、説明はしない。
「真白」
「はい」
「茶を入れてくれんか。出来れば、紅茶を頼む」
「わかりました」
雑用係じゃないかって?
それは違う、断じて違う、雑用係などではない。
ボスに言われたことはほぼ全て従うが、雑用係とは程遠い。
命令が戦闘ならば、それもやってのけるのだから。
「ダージリンでよかったですか?」
「ああ、ありがとう」
ボスの笑顔。
きっとこの笑顔は私だけが知っている。
守護者も他の部下も、誰一人として知らないだろう。
ボスの一番近くにいる嵐でさえも。
「では、私はこれで、」
「待ってくれ真白」
「何でしょう?」
「これが終わるまで、此処にいてくれないか?何もしなくていい」
書類に目を落としたまま問いかけてくるボスに、いいですよと軽く返事をしてソファに実を預けた。
もふっとソファは私を受け止めてくれて、そのまま目を瞑った。
だけど不意にボスが見たくなって閉じた目をすぐに開けた。
金色のきれいな髪が微かに揺れていて、髪の隙間からは筋の通った鼻が見える。
目は髪に隠れて見えないが、真剣な眼差しを書類に向けていることがわかる。
部屋に響くのは、ボスがペンを走らせる音と時々紅茶を啜る音だけ。
朝見たときには机の上に山積みになっていた書類は、お昼を挟んで少しの間にもうほとんどなくなっていた。
今日はボスは、狂ったように仕事をしている。
いつも真面目だけれど。
「ボス」
「やっと終わった、すまない真白、付き合わせて」
かたんとペンを置く音が耳に聞こえたから、ボスに呼びかけた。
そうするとボスからは謝罪の言葉が。
謝らなくていいのにといつも思うがそれは心の中に留めておく。
ボスなりの感謝の仕方、だと思うから。
「もう一杯、紅茶を頼んでもいいか?」
「ええ、もちろん」
「真白の分も入れてくれ」
「私の?」
聞き返すとボスは笑っていた。
たぶん、雑談でもしようと考えているのだろう。
何ともボスらしい。
わかりましたとボスに笑顔を見せて、その場を離れた。
数分で紅茶を入れてボスの執務室に戻ると、ボスは先程まで私が座っていたソファに座っていた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
かちゃんと緩い音を立ててテーブルの上にカップを置く。
ボスの隣に私は座った。
距離は、上司と部下より少し狭いくらいで、まぁいわゆる友達の距離だ。
それ以上開くことがなければ、狭まることもない。
私はボスへの特別な感情の思考を閉じ、ボスが話し出した言葉に耳を傾けた。
所詮は上司と部下の間柄貴方は私の傍にいるけれど、いくら手を伸ばしても決して貴方に届くことはないの。(2010.07.22)