私たちは、着実に恋人らしくなってきていると思う。一也は初日からちゃんと"恋人"として接してくれていたけれど、私は何だか夢を見ているようであまり実感がなかったこともあるし、生まれて初めての恋人でどうすればいいのかわからなかったのもある。だけどそんな思いも毎日寝食を共にすれば何てことはなくなっていった。……とは言っても、まだ1週間も経っていないのだけれど。


「一也、スイカ食べる?」

「スイカ?」

「うん、実家から送られてきたの」

「実家でスイカ作ってんの?」

「ううん、知り合いの農家さんから毎年買っててね、甘くて美味しいんだよ」


玄関の床に置いてもらった段ボールの中身を確認して、一也に話しかけた。中身を出そうとすると、横からひょいと軽々と一也が段ボールごと持ち上げて、私が驚いている間にキッチンへと運んで行った。


「あ、ありがとう」

「どーいたしまして。澄じゃ持てねえだろ?」

「一つくらいなら持てるから!」

「ほんとか〜?」


ニヤニヤしながらじゃあ持ってみろよ、なんて言われたから、両手で持ち上げる。スイカくらい…と思っていたけれど予想より重かった。ほら持てる!と目線を一也に送ると、やるじゃん、と言いながら頭を撫でられる。それが妙にくすぐったくって、スイカを置いてどうやって食べるかという問題へと話を変えた。


「冷凍すると日持ちもするし、シャーベットみたいになって美味いって知ってた?」

「そうなの?じゃあ半分は冷凍しよう!」

「オッケー。フリーザーパックある?」

「あ、うん、出すね」


私がフリーザーパックを探している間に、一也は手際よくスイカを切っていってくれる。冷凍する分は皮も種も落とし、サイコロ状にしてからフリーザーパックに入れ、砂糖をまぶして冷凍庫へ。冷蔵する分は八等分してからさらに六等分し、今食べない分はひとつずつラップにくるんでいく。そうすることでスイカの乾燥を防いで鮮度が保たれるんだとか。


「よし、じゃあ食べるか」

「うん!あ、そうだ、和室行かない?」

「お、いいね、夏って感じ」

「でしょう!」


カットしたスイカをお皿に乗せて、和室へと向かう。お皿は当然の如く一也が持ってくれて、私はと言うと和室の扉の開閉と冷房をつけたくらいだ。ご飯も基本的に一也が作ってくれてるし、至れり尽くせりな毎日を過ごしている。窓際にテーブルを寄せて、海を見ながら二人でスイカを味わう。


「あま……」

「ん〜〜甘くて美味しい!最高!夏!」


もしゃもしゃと食べていると、ふとお皿の私側にスイカの真ん中辺りの一番甘くて美味しい部分が多くあることに気づく。一也の方を見てみると、端の方ばかりが。


「真ん中食べないの?」

「澄にやるよ」

「え、どうして、」


私が尋ねると、一也は食べ終えたスイカの皮をお皿に戻して、左手で頬杖をついて私を見ながら、


「美味そうに食ってるのが可愛いから」


と、穏やかな笑みでそう言い放った。その一也の全てが、"美しい"とか"きれい"と表現する他なくて。思わずぽかんと口を開けたまま見惚れていると、やっと脳が一也の甘い台詞を処理したのかじわじわと恥ずかしさが込み上げてきた。


「も、もうっ、何言ってるのよ!」

「事実だけど?」

「〜〜っ!」

「ははっ、ほんっと、澄って可愛い」


追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ一也。涼しい和室で、冷たいスイカを食べているはずなのに、体温は一気に上昇して夏の暑さとは違う火照りが体を覆う。それをかき消すように私は急いでスイカをかき込んだ。隣の一也は私のそんな姿を見ながら、スイカの端をゆっくりと咀嚼していた。何となく、スイカの"つまみ"にでもなった気分だ。
スイカの赤がほとんど消え、お皿の上に種が大量に散らばって、私たちはスイカを食べ終えた。


「はー、苦しい、お腹いっぱい……」

「俺もー」

「一也はそんな風には見えない」

「あ、バレた?」

「バレバレだから!」


畳に寝転ぶと、一也も同じようにして倒れる。自然と一也の方に体を向けると、一也は手を枕にして既に私の方を向いていた。


「澄」

「な、に……?」


甘ったるい声で呼ばれて返事をすると、ぐっと腰を引き寄せられた。さらにその手は私の頭を一也の腕に乗せ、もう一度腰を抱いて体を密着させて離してはくれなくなる。あまりの驚きに目を回しそうになっているところに予告もなくキスをされ、卒倒していてもおかしくないくらいにはドキドキしていた。そして私たちは、気づけばそのまま眠っていた。




(2018.10.18)


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