中二の春、俺は初めて“恋”というものを経験した。
同じクラスの華紀真白っつー奴に。
華紀は中一のときのクラスの女子で唯一、俺に無関心な奴だ。
華紀以外のクラスの女子は毎朝挨拶してきたし放課後もしてきた。
何かと話しかけてきたし、バレンタインにはチョコだってくれた。
だけど華紀だけは、挨拶もしてこない、何かと話しかけてこない、バレンタインにチョコだってくれなかった。
当時は、挨拶をしてきて欲しかったわけでも話しかけてきて欲しかったわけでも、チョコが欲しかったわけでもなかった。
ただクラスの一員だとしか思っていなかった。
短かった春休みが終わって、中二になってまたツナや獄寺と同じクラスだった。
2−Aのクラス名簿の中には、“華紀真白”という名もあったが、俺は見ていなかった。
「華紀、さん?」
「あぁ。ツナ、話したりしたことねぇか?」
「うーん、ないなぁ……」
「獄寺はどうだ?」
「席が隣になったときに、何回かならある」
華紀が同じクラスだと知るのに、時間なんてかからなかった。
ツナたちと教室に行ったときに見つけたのだから。
そのときだ、俺が、華紀に恋をしたのは。
俗に言う、一目惚れ、っつーやつか?
華紀は友達と話していて、笑ったときに、その笑顔に惹き込まれた。
「どんな奴だ?」
「どんな奴って……別にフツーの奴だぜ?特に何が出来るって訳でもなさそうだしな」
俺がツナと獄寺に、サンキュと礼を言うのとほぼ同時に、チャイムが鳴り響いた。
少しだけ華紀を見てみると、友達と別れるところだったみたいで、やっぱり笑っていた。
俺が見ている限り、華紀は笑顔を絶やすことのない奴だ。
華紀は、特別可愛いとか特別綺麗だとか、そんな噂こそねぇが、たぶん俺は誰にでも優しい子なんだと思ってる。
とある日、俺はいつものように、ツナの席のところでツナや獄寺と話をしていた。
そうしたら聞こえてきた、会話。
「ねー、真白って、山本くん……とど……ってるの?」
「どうって?」
「例えば……かっこい……か、好き……、優……とか」
「山本くん、か。喋っ……からなぁ。でも、か……いとは思……よ。みんな……優し……ね」
「……とか、……はないの?」
「えぇっ?!うーん、……てね?」
「もっちろん!」
「……よ。……くんのこと」
「やっぱり?ちょっとだけ……って、思っ……んだ」
「……てたの?」
「なんと……けどね。頑張……ね、……んし……から」
「ありがとう」
華紀とその友達に背を向けていたから、どんな表情でどんな動作をしながら話していたかは、わからねぇ。
俺も、ツナや獄寺と話しながらだったしでところどころしか聞き取れなかった。
だけど華紀が、俺のことを悪く思っていないんだということがわかっただけで嬉しかった。
しばらくしてチャイムが鳴る。
自分の席に戻るとき、また少しだけ華紀を見た。
いつものように、笑っていた。
(2009.10.24)