平日は学校に行って、休日は真白と出かけたり、ギターの練習をしたり、とにかく尸魂界では出来ない体験を沢山した。

そんな日々は、無常にも早く過ぎていって。

遂に半年が過ぎて、俺が尸魂界に帰らなければならない日がやって来た。



「もう、帰らなきゃいけないの?」

「……ああ。今まで、世話んなったな」



真白の顔は、酷く哀しそうだった。

見ていたくないくらいで、ぎゅっと抱きしめてやりたかった。


あの日決めたように、俺は真白に想いを伝えていない。

伝えてえ気持ちは確かにあった。

だけど真白には、苦しんで欲しくなかった。



「人が死んで、尸魂界っていうところに行ったら、生前の記憶は無くなるんだってね」

「真白お前それ……!」

「黒崎くんに訊いたの」

「そう、か」



俺が真白から視線を逸らすと、真白は俺に抱きついてきた。

ぎゅっと、俺の死覇装を握っている。

真白を抱きしめ返すと、真白は弱々しい声で、俺の名前を呼んだ。



「私、修兵のこと忘れないから。絶対絶対、忘れないから。だからね、修兵も、私のこと忘れないで。いつの日か私が死んで、尸魂界に行って生前の記憶が無くなったとしても、忘れないで」

「ああ。約束、する。絶対に真白を、忘れたりしねえ」



しばらくの間俺たちは、抱きしめ合っていた。

恋人でもねえのになんて一人で考えて、虚しくなった。


きっと真白は俺のこと、どうとも思ってない。

何か思っているとしたら“大切な友達”くらいだと思う。



「あのね修兵、一つだけ聞いて」

「なんだ?」

「好き。修兵のことが好き。大好きなの」

「真白……?」



真白の口から“好き”という単語が出てきた瞬間、俺はその言葉の意味を理解することが出来なかった。

何を言っているんだと思った。

日本語のはずの言葉が、何だか知らない国の知らない言葉のように聞こえた。


――だけど。

その言葉の意味はすぐに理解できた。



「ねぇ、修兵は、私のこと好き?」

「……答えらんねえ」

「お願い。聞きたいの」

「答えを聞いて、これから先、真白が苦しむことになったとしても、か?」



コクリと、真白は頷いた。

真白の目を見てみると、とても真剣な目をしていた。

今まで見てきた真剣な目とは違う。


真白は、こう続けた。



『修兵の気持ちを知らない方が、もっと苦しいから。もしかしたらもう、私が死ぬまで会えないかもしれないでしょう?私は修兵のことが好きなのに、修兵の気持ちを知らないまま死んでいくのは、嫌』



と。


一筋の涙が、真白の頬を伝った。

その涙は次々と溢れてくるわけではなくて、零れた一筋だけだった。


凛とそこに立っているみずきからは、真白の強い意思が伝わってくる。

俺は、決意を改めた。



「修兵、」

「俺は――……」



真白の目を、見据えた。


俺の気持ちを言葉で表す前に、唇が重なった。

“好き”だと言葉にするのが、俺は怖かったのかもしれない。

それを伝えることによって真白が苦しむかもしれないと思うと、それを伝えないことによって真白が苦しむのだと思うと、すっげえ怖かったのかもしれない。


結局真白は、俺と出逢ってしまったことによって、苦しむことになるのだ。

それなら真白の望む方を。


最後に一つだけ、真白に囁いた。



「必ず、だからね」



真白の言葉を背に、俺は八席との約束の場所へと歩き出した。




真白が死んだときは俺が迎えに行く。

真白のことは絶対に忘れたりしねえ。

――真白が生きている間に、必ず逢いに行く。




別れる間際に交わした二度目のキス。

それは……。



(2009.10.24)



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