真白と出逢ってから、早二週間半くらいが過ぎようとしていた。
その間俺は、ほぼ毎日のように真白にギターを教えて貰っていた。
もちろん現世任務の間は“高校”とかいうところにも行かなきゃいけねえから、真白と一緒に登校したりしたし、ちゃんと任務もこなした。
……とは言っても、この二週間半の間で虚が出たのなんて、3回くらいだけれど。
平和、とは、こういうことを言うのだろう。
「しゅーへー!行くよーっ!」
「おう!」
今日は火曜日、もちろん学校があるわけで、俺と真白は朝、一緒に登校した。
周りからは何度も仲が良いと言われ、その度に真白はありがとうと言って返していた。
最初は、俺と真白はどういう関係なのかを訊かれて、俺があたふたしている間に真白がきっちり説明してくれていた。
真白は“遠い遠い、とってもとおーい親戚。らしいの”という設定にしたみたいだ。
時間というものは止まることなく確実に進んでいき、1限のときに“昼までにあと3時間もある”とかって考えていたのにも関わらず、気づけばもう昼になっていて、放課後になっていた。
放課後は、大体の生徒が“部活”というものに行くらしい。
帰宅部と言って、部活に入らず家に帰る奴もいるみてえだ。
真白はコーラス部とかいうのに入っていて、俺は毎日みずきと一緒にコーラス部の部室まで行って部活を見てから、真白と一緒に帰る。
先に帰っててくれてもいいのに、と真白は言ったが、部活が終わるのは7時半くらいで、帰るころには8時前になっているから危ねえっつって、俺は先に帰らずに真白と帰る。
「ねー、修兵」
「どうした?」
それで、だ。
どうやら俺は、真白を好きになっちまったらしい。
俺は死神で真白は現世の人間だ。
そんなことあっちゃいけねえとはわかってる、俺だって、伊達に死神やってきたわけじゃねえ。
人が死んで尸魂界に行ったときどうなるかくらいも、わかってる。
「ギター上手になったよね」
「真白の教え方が上手いからな」
「そう、かな?」
「ああ。礼言うぜ」
けど好きなもんは好きなんだ、仕方ねえ。
想いを伝えるってことさえしなけりゃ、それで大丈夫だ。
俺が苦しむだけだから、それでいい。
想いを伝えて、それで真白が悩んだり苦しんだりしたら、それこそ辛え。
俺と真白はいつものように、他愛もない会話をしながら暗くなった帰路を歩いた。
家に着くと真白はすぐに着替えて、食事の用意を始めた。
俺も手伝おうかと思って、キッチンに行った。
真白はありがとうと言って、二人で食事を作っていた。
「修兵、訊いてもいい?」
「なんだ?」
「人って、死んだらどうなるの?」
「真白……?」
突然のことだった。
くだらない話やギターの話をしながら、二人で料理を作っていただけだった。
なのに突然、真白が訊いた。
俺が、死神だってわかってるからだ。
「何、言ってんだよ。真白はまだ死なねえだろ?」
「そうだけど。でもね、怖いの、死んだらどうなるか、わからないから」
真白の言葉に、何も言えなかった。
死に対する恐怖は確かに、ある――いや、あった。
それは底知れぬ恐怖で、考えるだけでどん底に突き落とされたような気分になった。
きっと今の真白も、そんな感じだろう。
「真白、俺、約束するから」
「約束?」
「ああ。人が死んだら、地獄に行くか、尸魂界に行くかだ。真白なら絶対、尸魂界に行ける。だからそのときは必ず、俺が真白を迎えに行く」
「……うん」
例え真白が、俺のことを覚えていないのだとしても。
俺たちの間にはただ沈黙が流れて、味噌汁を作っている小さめの鍋が、コトコトと音を立てているだけだった。
(2009.10.23)