「待てよ、真白!待てって!」
とある快晴の日の放課後のことだった。校舎にはもう誰も残っていないような時間に俺と真白は教室にいた。すると突然、
「そうか。私はここにいちゃいけないんだ」
と呟いて一人スタスタと廊下を突き進み、屋上へと出た。俺はただ待てよと真白を制しながら後ろをついて歩いただけだ。結局真白を止めることは出来ずに今に至る。真白は一体どうしたんだ。
「なあ、真白、」
「なあに?」
「やめろよ、そんなこと」
「だって、私は必要ないんだよ」
何を言っても真白は引こうとしない。いや、だからって足を引かれたら困るけれど。とにかく俺の方へ戻ってくる気はないらしくその場を動こうとしない。寧ろ後ろへ進もうとする一方だ。
「何でそう思うんだ?少なくとも俺は真白が必要だ」
「そうは言っても、私がいなくなれば代わりを見つけるんでしょう?」
「代わりなんていねえよ」
「私という存在は私以外には確かにいないわ。だけど私の抜けた穴を埋める誰かは存在する」
真白の言うことは間違っちゃいねえ。だけど俺が言っているのはそういうことじゃない。真白は一体何を考えているんだ……?
ゆっくりと三歩近づく。真白はその場から動かずにただじっと俺を見つめていた。
「ね、一護」
「何だ?」
「こっちへ来て」
「俺は止めるぜ?」
更に真白との間合いを詰める。真白が足を踏み出さないように気を配りながら、一歩ずつ、一歩ずつ、慎重に。柵を隔てて距離がなくなっても、何故か真白はそこから動かなかった。
「よ、っと」
「一護……」
ぎゅっと抱きついてくる真白。淋しそうに見上げてきて、そのまま唇が重なる。珍しく真白から俺を求めてきて自分がいる場所も忘れて真白に口づけた。不意に妙な浮遊感が体を包む。そして、
モノクロ世界に身を投げた
俺は、完全に油断していた。
(2018.07.06)