海辺の狭い一室、格子窓から月を見上げた。今日は雲ひとつなく星さえきれいに見える。決まってそんな夜、彼は訪れる。とてつもなく憎く……最愛の人――。私をここに閉じ込めている張本人である、雲雀恭弥が。
「また空なんて見てるの」
「そうでもしないと気が狂いそうだもの」
「もう狂ってるね」
「どうかしら」
恭弥の言う通り、私は既に狂ってしまっているのかもしれない。だけど誰とも比べようがないからわからない。もう恭弥以外の人間がどんなだったかなんて忘れてしまった。私は、籠の中の鳥だ。もしくは檻の中の虎。
「ねえ恭弥、愛しているわ」
「……笑わせないでくれる?」
「あら、本当よ?」
「じゃあ真白、」
その続きが紡がれることはなく、重なり合う唇。漏れ出た吐息は闇に消え、私は恭弥の首に縋り付く。そっと押し倒されて恭弥が月明かりに照らされた。変わらない端正な顔立ちは月映えして一層艶めいて見えた。
「もし私が毎日来て欲しいって頼んだら、どうする?」
「さあね、頼んでみたらわかるんじゃない」
「……きっと来ないわ。恭弥は私を愛していないでしょう?」
「どうして真白はそう思うの?」
暫し考えてから、女の勘だと答えるとまた深い口づけが落ちてきた。肯定なのか否定なのかは全くわからない。ただ一つわかるのは恭弥は私を嫌ってはいないということだけ。……それでも、時々不安になる。もちろん憎悪の念も湧き上がってくる。
「真白を愛していなかったら、来ないよ」
「え?」
「こんなところに閉じ込めたりもしない」
「恭弥……?」
ふっと抱きしめられて、その言葉に一瞬息が止まる。何故か憎しみが全身を襲ってきつく恭弥にしがみついた。このまま肩をありったけの力で噛んでやろうかとも思った。だけど恭弥が首の付け根に吸い付いてくるからすぐ感情は元に戻った。
「愛してるよ」
「ほんとうに?」
「だからこそ、誰にも触れさせないように、汚れないように、僕以外のことで傷つかないように、閉じ込めてるんだけど」
「貴方、狂ってるわ。そんな貴方が愛しいと思う私も、相当狂ってるみたい」
この場にそぐわない程に柔らかい光の中で私たちは見つめ合い、そしてまた唇を奪い合う。ふと先程のことを思い出して毎日来て欲しいとおねだりをしてみた。見たことのないくらい優しい顔で恭弥は微笑んだ。そしてそのまま、
大事に閉じ込められて
今日も私は闇に溺れていく。
(2018.07.06)