あの日の記憶が頭から離れない。どうしたって脳裏に焼き付いて、染み付いて、ふとした瞬間に蘇る。その度に酷く落ち込んで泣き喚いて恐怖に戦慄く私は、一体これからどうやって生きていけばいいのだろうか。
「真白?」
「……神田」
忌々しい出来事を思い出して床に蹲っていると、不意に声をかけられる。振り返ったそこにいたのは、神田ユウ。特別仲がいいわけでもなければ、特別仲が悪いわけでもない。一人の仲間で、一人の家族だ。ただ、私の中には少なからず神田への恋心があったんだと思う。
「大丈夫か?」
「あんまり、」
何故か神田は私のことはよく気にかけてくれていて、こうして沈んでいる時は何だかんだ甘えさせてもらっていた。今日も今日とて、神田は私の情けない歪んだ顔を見ると私を抱き上げ、部屋へと連れ込んでくれた。
「ありがとう、神田」
「別に、邪魔だっただけだ」
「それでも。いつもこうして側にいてくれる」
「……チッ」
黙れ、とでも言うかのように少し乱暴に頭を引き寄せられる。神田の肩口に顔を埋め、その温もりがじんわり私を侵食していく。それと共にひと粒、またひと粒と涙も溢れて止まらなくなった。ただひたすら泣いて、泣いて、泣いたあと、朧気な思考を巡らせた。
「神田、わたし、」
「……無理に話す必要はねぇよ」
「ううん、話したいの」
「そうかよ」
自ら思い出すようなことはしたくなかった。だけど何となく、神田に話を聞いて欲しかった
半年前のよく晴れた夜、月も星も空いっぱいに広がって見える、キレイな日だった。任務の帰りに一人歩いていたら、突然車に押し込まれ、手足を拘束され、山奥へ連れていかれた。そして一軒の山小屋の中、私は複数の男にレイプされた。
「……神田」
「っ……!?真白、何を……っ!?」
「私、気づいたの。上書きすればいいんだって」
「真白……っ!」
話し終えて、神田の瞳を捉えると、そのまま一気にベッドへ押し倒した。
「だからねぇ、お願い、」
君が忘れさせてほしい
私の全てを、奪い取ってよ。
(2018.07.06)