あの日からオレは、とある城へと頻繁に足を運ぶようになった。
「真白ー」
「なぁに?ベル」
「ひーまー」
「ふふ、いつもそうでしょう?」
任務の帰り道、ベランダに出ている真白を初めて見た。柄にもなく目が離せなくなって、いつもとは違う乾いた笑いが漏れたのを覚えている。淡いピンクのドレスを身にまとった真白は、じっと見つめるオレに気づいてニコニコと笑って手を振ってきたのだ。それ以来、こうして真白の元を訪れては話をするようになった。
「今日は任務はないの?」
「もう片付けてきた、だってオレ王子だもん」
「あら、流石ね」
「ししっ」
真白はベランダに置いてある椅子に座って、優雅に紅茶を飲んでいる。オレにも用意してくれていたから、着いた時にすぐ飲み干した。真白がコップを置くと、どこか向こうの方から真白を呼ぶ声が聞こえた。
「お父様が呼んでいるみたい。少し行ってくるわ」
「えー、つまんない」
「すぐ戻るから、ね」
「王子なんだからあんま待たせないでよね」
わかってるわ、と微笑んで真白は部屋を出た。何もすることがなくなって一層暇だと感じて、ふと真白の部屋へ入ってみた。お姫様のイメージそのままの部屋。だけど真白のものと思われるものはほとんどないように見えた。しばらく部屋を物色していると、真白は戻ってきた。
「ベル王子のこと、待たせてしまったわね」
「ししっ、部屋見てたからだいじょーぶ」
「……何もないでしょう?この部屋」
「真白の部屋なんでしょ?」
さみしい顔をする真白。オレはその顔が嫌で、真白の手を引いた。驚く真白を気にも留めずベランダへ出る。一瞬だけ迷って、真白を腕の中に閉じ込めた。真白はオレにしがみつくようにぎゅっと背中に手を回してきて、それでオレは決意を固めた。
「ねえ、真白」
「ベル」
離して、真白の前に跪く。真白の手を取って、真白を一度だけ見上げて、手の甲にキスを落とす。もう一度真白の方へ目を向けると出会った日のようにキレイな顔で笑っていた。だから、
美しき姫様
オレと一緒に来なよ。
(2018.07.06)