いつもと同じように、争いを止めただけだった。ただそれだけなのに。


「綱吉……あんまり気にしない方がいいよ、ね?」

「ああ、わかってる」


眉を下げて苦笑する綱吉。その周りには人だかりができていて、黄色い声や歓声が飛んでくる。喜ばしいことではあるのだけれど、今までこんな風になったことはなくて私たちは戸惑っていた。ごめんなさい、と周囲に断りを入れて、早足にその場を去る。


「はあ……しんどい、真白……」

「お疲れさま」

「真白……」

「よしよし」


ボンゴレの屋敷に戻ってきて部屋へ直行する。着替えもしないままソファになだれ込んで、綱吉は私の胸に顔を埋めた。ふわふわのブラウンの髪をゆっくりと撫でると、綱吉はぎゅう、と腰に回す腕に力を込めた。


「少ししたら、きっと収まるよ」

「そうだといいんだけど」

「大丈夫、大丈夫」

「真白にも、迷惑かけちゃってるよね」


気にしないで、と、顔を上げた綱吉に触れるだけのキスをする。唇を離そうとすると綱吉の方からさらに押し付けてきて、薄く目を開けて見た彼は辛そうな表情をのままそれを忘れようとしているように感じた。しばらくしてやっと口づけが終わると、綱吉は少しぼーっとしてからその辺に着ていたスーツを脱ぎ捨てた。


「もう、綱吉ったら……スーツ、皺になってしまうじゃない」

「いいんだ、別に。それより真白」

「ちょっと待って」

「真白」


強く呼ばれるけれど、スーツをきちんとハンガーにかけてから、私はラフな格好へと着替える。その間に綱吉も服を着てくれていたみたいで、私が振り返った時には大人しくベッドに腰かけていた。


「真白、」

「寝ようか」

「ねえ、真白。真白は、真白だけは、変わらないで」

「変わらないよ。綱吉は綱吉だもの」


二人でベッドに潜り込む。周囲の反応に疲れたときはいつもこうして、時間に関係なく眠ることにしていた。綱吉の腕に抱かれて、きつく身を寄せあって。本当に、小さなマフィア間の小さな諍いを止めただけだというのに……。


英雄にされた男

それでも頑張る貴方を、知っているわ。




(2018.07.06)



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