――嗚呼、また、やってしまった。
明け方と言うにはまだ薄暗く、深夜というには少し明るくなってきた時間。私は並盛町の地下にあるボンゴレのアジトへと足を運んでいた。ヴァリアーに所属し、9代目直属と謳って聞かない我らがボスに代わって私が10代目とヴァリアーの橋渡しをしていた。だからアジトへの入口も知っているし、セキュリティに引っかかることもない。
『隼人……』
ゲートをくぐり、呟く。どうやらジャンニーニは寝てしまっているようで、監視カメラに映る異様な姿の私にアジト内が慌ただしくなることはなかった。白蘭が新世界を作ろうとしていた未来とは違うアジトの構造になっていて、ファミリーのみんなにはそれぞれ個室が与えられていた。私は一直線に、嵐の守護者である獄寺隼人の部屋へと向かう。
『隼人』
隼人の部屋に入り、きちんと扉を閉めて今度ははっきりと彼の名を呼ぶ。だけど隼人は起きない。ベッドの側へ寄ってもう一度声に出すと、漸く彼は目を覚ました。
「……っ!真白お前……!」
『会いたかった隼人』
全身に敵の返り血を浴びたままの私。体を起こした隼人にがばりと抱きつき、唇を奪う。隼人は何も言わずそんな私を受け入れてくれて、もうこれで何度目になるかわからない。最初こそ隼人は戸惑い、焦り、私を引っペがしてはお風呂へ放り込んだけれど、幾度もこうして訪れるうちに諦めたらしい。隼人の服を、何枚血まみれにしたことか。
「なあ、真白、辛いならヴァリアーなんて辞めちまったっていいんだぜ」
『ダメだよ、それじゃ、死ぬのとおんなじだよ』
「んでそうなるんだよ……」
『敵を……人を殺して、血まみれになって、それから隼人にキスをする。そうすると、私は生きてるって実感できるの』
次に隼人が何か言葉を紡ぐ前に、その口を封じてしまう。首と背中に回した腕の力を一層強め、シガミツクように隼人を引き寄せた。このままずっと、夜が明けるまで隼人との口づけに溺れていたい。その思いも虚しく、舌を割って入れようとした瞬間に無理矢理隼人に引き剥がされた。
「は……っ、真白、お前な……!」
『なに?』
「……俺だけ見てろよ。生きてる実感なんて、いくらでもくれてやる。ヴァリアーなんてやめてこっちこいよ、真白」
『隼人……』
真剣に言われるけれど、それでも私は、ごめんなさいと断った。それに今でも充分隼人だけしか見ていない。だけどもう、この手を汚すことでしか、生きていると感じることができなくなってしまったんだ。
人殺しにキスなんて似合わない
わかってるけど、私がヒトで、ある為に。
(2018.07.06)