ひらひらと桜の花びらが舞う季節、俺はある場所の一本の桜へ向かった。辿り着くとそこには真白がいた。幹に右手で触れて、左手は胸の辺りに置いているようだった。俯いて何をしているのか……俺は迷った末に声をかけた。
「真白」
「、恋次」
「何してんだ?」
「思い出していたの」
何を、と問うてもいいのか葛藤している間に真白の方から話し始めた。俺なんかが聞いてもいいのかと思ったけれど、話し出したならきっといいのだろう。何年も前にこの桜の下で永遠の愛を誓い合った男がいる、という話だった。
「ケジメをつけようと思って、来たの」
「乗り越えたんだな」
「そう……だといいな。ねえ恋次、傍にいてくれる?」
「……俺でいいなら。いつまでだろうと真白の傍にいてやるよ」
ありがとうと小さく音にして真白は涙を流した。それが悲しみの涙なのか喜びの涙なのかは訊けなかった。ただ零れたのは一筋だけで、吹き抜けた風が花びらと共にさらっていった。
(2012.03.24)