真白を待たせている会場の隅へ戻ると、真白は静かに目を閉じて右手にまだ少しワインの残ったグラスを持って左手を胸の下から右の二の腕に乗せてただ壁にもたれて立っていた。しばらく見とれているとゆっくりと真白の瞼が持ち上がってきれいな翡翠色の瞳が俺を捉えた。
「綱吉」
「さっき、挨拶が全部終わった」
「そう。お疲れ様」
「ああ」
俺を捉えていた瞳は会話のあとすぐに伏せられた。心なしか少しばかり真白の声が拗ねていたように思う。俺が真白と同じように真白の左側に壁にもたれて立つと、真白は残っていたワインを一気に飲み干した。
「もうしなければならないことはないの?」
「ああ。今回は呼ばれただけだからな」
「じゃあ今からパーティが終わるまで綱吉といられるのね?」
「、……真白、」
真白の左手を引いて真白にキスをする。ヒールを履いているから今の真白は俺と同じくらいの身長だ。高いヒールを好まない真白だから俺の方が少し高いけれど。唇を離して真白を見ると喜ぶでもなく驚くでもなく俺の言葉の続きを待っているようだった。
「やきもち焼いたんだ?」
「な……、やきもちなんて、」
「焼いたんだろ?真白やきもち焼いたら、よく喋るもんな」
「焼いてないわ。綱吉が戻って来たからまだ何かあるのか気になっただけよ」
ほらよく喋る、と真白に言えば真白は頬を赤くしてそっぽを向いてしまった。いつもは気高い真白の可愛いところの一つだ。それにこれは俺しか見られないという特権付き。彼氏であり婚約者である俺だけが見ることが出来る真白だ。
「私だって、綱吉が好きなのよ。仕方ないでしょう」
「やっぱりやきもち焼いてたんだ」
「……綱吉がいないと不安なんだもの」
「大丈夫、俺には真白がいればほかは何もいらないから」
そっと真白の唇に触れてから空いたグラスに新しいワインを注ぎに行った。今度は甘い香りのするイタリア名産のブランド物の白ワイン。さっきまでいた会場の隅のあの場所で二人きりで乾杯とグラスを鳴らしてワインを飲んだ。
(2011.01.13)