「恐らく、原因は疲労だと思います。心当たり、ありませんか?」

「……あります。真白、ずっと鍛錬ばっかしてたから……」

「きっとそれですね。なぜ休養を取らせなかったんですか?」

「休めとは何度も言ったさ。でも真白が聞かなくて」



そうですか、と医者は言った。


俺の頭の中はただ真っ白で、自分の口から言葉が発せられていること自体驚きだ。

勝手に言葉が出てくる。




「真白、」

「ら、び……」

「やめろって、俺何度も言ったさ」

「そう、だね」



真白の声は、いつもと全然違う。

とても弱々しくて、今にも消えてしまいそうだ。


結局真白を休ませる方法なんて見つからなくて、今日の日を迎えてしまった。

俺の中には、後悔と哀しみだけ。



「らび……ごめんね……」

「真白……」

「私が、らびの言うこと聞かなかったから、だね」

「そうさ、俺休めって、言ったさ」



ベッドに横たわる真白は、もういつもの真白ではない。

あともう少ししたら、きっと真白は。


人工呼吸器の所為で真白とキスが出来ない。

あと一度でいいから、真白とキスがしたいのに。



「ラビ、」

「真白お前……!」

「キス、したいの」

「……ッ」



自分で人工呼吸器を外して、真白は言った。


真白の目から零れ落ちるそれを見て、俺は真白を怒ることなんて出来なかった。

人工呼吸器を付け直すことさえも、出来なくて。


ただ真白の思うまま、俺の思うまま、何度もキスをした。




医者の話を聞き終わって、その部屋から出ると、外には沢山の人がいた。

リナリーとかミランダとか、女の子は泣いてる。


俺は、部屋から出ても何も出来なかった。

質問責めに遭っても、何も答えることが出来なかった。


小さく“一人にさせてくれ”って呟いたのが、何故だかみんなに聞こえたみたいだ。

涙を堪えて歩いて、誰もいなくなったところで、ひたすら泣いた。

声が涸れてもいいと思った。


そのときの俺は、全てを失った気分だった。

声も音も色も生きる意味も、全てを。



(2009.08.29)



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