真白と付き合うようになってから、二ヶ月くらいが過ぎた。


今はもう夏休みで、もうすぐ総体の試合がある。

全国に行って優勝したい。

俺の中には、野球部の中には、そんな思いがあった。

だから練習はだんだんとキツくなってきて、真白と会える日や、時間が、短くなっていった。


真白はいつも“いいよ、気にしないで。武、野球大好きだもんね”と笑って言ってくれる。

無理をしているようには見えねぇけど……本当は無理をしているんじゃないかって、ずっと気になってる。



「武!」

「真白!?」

「練習、お疲れ様。まだあるんだよね?」

「あ、あぁ……」



いつものように練習をしていると、突然真白がグラウンドにやってきた。


まだこの時間は、真白は部活をしているはずだ。

なのにどうしてと俺が驚いていると、真白は説明をしてくれた。

今日は休みが多かったから部活の時間が短くなったんだと。



「ここで、待っててもいいかな?」

「いいけど……遅くなるかも、しれねぇぜ?」

「うん、いいの。武の頑張ってる姿を、野球を楽しんでる姿を、目に焼き付けたいの。沢山、沢山、ね?」

「……おう!頑張ってくるわ!」



行ってらっしゃい、と、真白は笑顔で俺を見送ってくれた。

それは無理をして作った笑顔じゃなくて、心からの真白の笑顔だった。

だから安心して、俺は練習に打ち込むことが出来た。


休憩時間になればすぐに真白の元へ行って、色んな話をした。

今までの想い出とか、これからの予定とか、とにかく沢山、沢山な。



それから数日後。


その日は、総体試合の日。

臨時マネージャーとして真白がスケットに来てくれた。

並中の野球部はマネージャーを募集してねぇし、マネージャーなんていねぇ。

だけど総体だから大変になるだろうって、真白が監督に申し出て臨時で色々仕事をしてくれるみたいだ。



「真白!」

「あ、武、どうしたの?」

「試合始まる前に、真白と話がしたくなったのな」

「あはは、武らしいね」



試合会場でそれぞれ練習があって、そのあと監督やコーチの話を聞いて、試合開始までの余った時間。

俺と真白は、二人で思いっきり笑ったりして二人の時間を楽しんだ。

時々先輩も混ざって話した。


終始、笑いが絶えることはなかった。



「そろそろ時間だね、武」

「あぁ、そうだな」

「勝とうね、絶対」

「おう。真白がいれば絶対勝てる気ぃする」



それは言い過ぎだよ、ありがとう。と真白に言われた。

俺は心の中で、言い過ぎなんかじゃなくて本当のことなんだけどな、と呟いた。


真白がいなかったら、この試合に勝てる気がしねぇ。

それでも、勝たなきゃいけねぇんだと思うけど。



「なぁ、真白」

「ん?」



帽子を被って、立ち上がった。

真白に背を向けたまま、真白に話しかける。

一つだけ、真白に言いたいことがあるんだ。


真白との想い出を、絶対に忘れねぇって意味を込めて。

今までの想い出だけじゃなくて、これから創られていく沢山の数え切れないくらいの想い出も、全部含めて。



「あのな――――――………」





グラウンドへと駆けていった武は、とっても輝いていて、とってもとってもかっこよかった。



(2009.11.09)



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