前より、一日が早く感じるようになった。

驚くくらい早くて、どうしたらいいかわからなくなった日もある。

だけどそんなときには、いつも真白が傍にいてくれて、大丈夫だよって励ましてくれた。


日増しに、真白を好きになっていった。



「山本!ちょっと来なさい!」



小学校からの友達で、真白の友達でもある奴に呼ばれて、俺はそいつについていった。

それは、夏休みが明けて一ヶ月くらいがたったある日の放課後のこと。


ついていって辿り着いたところは、校内で一番人気の少ないところ。

相変わらずそこには誰もいなくて……ただ、そのときは一人の人の気配を感じた。



「どーしたんだ?俺をこんなとこにつれてきて」

「アンタと、真白の、恋のキューピッドになろうと思って」

「……?」

「やっぱ、気づいてないわね、二人とも」



そいつは小さい声でそう呟くと、真白の名を呼んだ。

物陰から、真白が出てきた。

感じていた人の気配は、真白のものだったみたいだ。


五分くらい、その場に沈黙が流れて、その間そいつは俺と真白を見比べていた。



「私が用意したこの時間、無駄にしないでね?ちゃんと互いに想いを伝えるのよ?」



それだけを言って、そいつはその場を去った。

俺は言っている意味がわかったようで、わからなくて。

真白も俺と同じみたいだ。


だけど、その“わかったようでわからない”感情はすぐに消えて、“わかった”というものに変わっていった。

一度真白と目が合って、互いに同じタイミングで視線を外す。


俺は意を決して、真白を見た。

そうしたら、真白も俺を見てくれて。



「俺、真白のこと、」「私、武のこと、」

「「好き」」



見事に、声がかぶった。

台詞も同じもの。

言った直後は俺も真白も、互いに何を言っているか理解出来なくて、しばらくして理解すると、一瞬の内に頬に熱が集まったのがわかった。

真白の顔も、真っ赤になっていた。



「あ、あのね、武、」

「なんだ?」

「私、思ってたの。武にこの想いは伝えられなくてもいいって」

「……真白?」



頬の赤さを残したまま、真剣な顔つきになる真白。

それにつられて、きっと俺も真剣な顔になった。


ふわりと柔らかい風が吹いて、俺と真白の間をすり抜けていった。



「ただ武が、幸せになってくれればそれでいいって、思ってたの。だって私は、武が好きだから。武の幸せは、私の幸せ。武を好きになってからずっと、そう思ってきた」

「俺も。俺も、そう思ってた。真白が幸せになるなら、それでいいって。誰とどんな関係になろうと、それで真白が幸せになれるなら、って、思ってた」



お互いに顔を見合わせて、笑った。

まさか同じことを考えていたなんて、思いもしなかったから。




“真白が俺といて幸せになれるのなら、俺はずっと真白の傍にいる。

真白が俺といて幸せになれねぇのなら、俺の傍にいたいとは願わない、傍からいなくなる。”


“武が私といて幸せになれるのなら、私はずっと武の傍にいる。

武が私といて幸せになれないのなら、私は望んで武の傍から離れていく”





――交錯する、二人の想い。



(2009.10.30)



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