5月、ゴールデンウィークも明けた頃のことだった。入学して一ヶ月が経ったものの、何となくクラスの雰囲気に馴染めず、お昼休みはいつも屋上へ続く階段の一番上で一人で過ごしていた。その日もいつものように、その場所にいたのだけれど。
「あれ?こんなところで何してんの?」
「えっ?」
黒髪、短髪、高身長、イケメン。声が聞こえてお弁当から顔を上げた先には見たことのない人。見上げたまま固まっていると、その人は私の隣に腰を下ろす。必然的にそのまま目線で追ってしまって、急に近くなった顔にドキリとした。
「一人で昼飯?」
「え、あ、はい、」
「いつも?」
「はい……」
尻すぼみに返事をする。緊張して何も話せなくて、そこで会話は終わってしまった。別に、クラスメイトと仲が悪いわけではない。いつもこうやって緊張して、上手く話せなくて、逃げるようにここに来るのだ。彼から目を逸らしてお弁当に意識を向ける。まだもう少し残っているおかずを食べようとしたとき、隣からまた声が降ってきた。
「友達いねーの?」
「いない、というか……クラスメイトは、知り合い、くらいで……」
「ふーん。じゃあ俺が友達になってやるよ」
「……え?」
ダメなの?と覗き込んで訊かれて、思わずブンブンと首を横に振ってしまった。すると彼は笑って続けた。
「俺、2年の真田俊平。お前は?」
「あ……1年の、華紀真白、です」
頭の中が混乱する。どうして、という言葉だけがぐるぐる、ぐるぐる。そんな私を気にする風もなく、これもらっていい?と、からあげをひとつ持っていかれた。
「うん、美味い。手作り?」
「はい、昨日ママと一緒に、作りました」
「やっぱり。てか真白、ママって言ってんの可愛すぎだろ」
「っ……!?さ、真田せんぱ……!?」
頭に手を置かれ、くしゃりとされる。その言動に私はもうキャパオーバーだった。自分でもわかるくらいに顔が熱くて、心臓が煩くて、あと少しのお弁当の中身を一気にかき込んだ。最後にお茶を飲んでお弁当箱をしまうまで、真田先輩はずっとニコニコして私のことを見ていた。
「真田先輩、」
「名前で呼んでよ」
少しくらい文句を言ってもいいだろうと思って口を開くと、真剣な表情で言われ、目を見開いた。有無を言わさぬ雰囲気で、ゆっくり、しっかり、息を吸って、吐いて、そして名前を呼ぶためにもう一度吸う。まだ、顔の熱が残っている。
「俊平、先輩……」
「……!激アツ、だな」
名前で呼ぶのは本当に恥ずかしくて、むず痒くて、だけどしっかり瞳を見つめて声にした。今度は真田先輩が目を丸くして、すぐに頬が赤くなって、手で口元を覆った。キョトンとする私に、何でもねーよと視線を逸らしながらも髪をくしゃくしゃにされる。
こうして、私と真田先輩は出会った。
(2018.06.28)