俺は今の今までベッドの中でこの風景そのままの夢を見ていて真白を傷つける時間なんてなかったわけで、そもそも真白を傷つける理由だってない。もしあったとしても俺にはやっぱり時間がないわけであって。



「だけどボス……いつもとどこか違った」

「違った?どこが?」

「それは、わからない」

「、真白……」



横たわる真白を見た。傷は幸い深くはない……ただ色んなところにある。もし俺がやっていたのだとしたらこんな切り傷は説明がつかない。刀や何か尖ったもので攻撃しない限りこんな切り傷はつかない筈だ。



「綱吉……、」

「真白、どうした?」

「山本、くん、」

「山本?」



山本を見た。目が合って何かを感じた――それはまるでどす黒い憎悪の塊のような、真っ白な純粋な殺意のような。山本だけじゃない、雲雀さんからも感じる。他は……いつもと変わらない。クロームを呼んで真白を任せた。



「お前、山本じゃないだろ?」

「何言ってんだよツナ、オレはオレだって」

「雲雀さんも」

「ワオ、僕もかい?」



二人は惚けているのか遊んでいるのか、一度問うただけでは素性を明かさない。仕方なく力を加減して二人を殴った。真白を傷つけた奴は誰であろうと許さない。例え二人が本物の山本で本物の雲雀さんだとしても。
少しの間二人を睨みつけた。だけど山本が口を開く、





「や、めろ……!」



やっとの思いで長い長い幻術を振り払い言葉を発した。目の前には見ていた幻術のように傷だらけで手足を拘束された真白。当の俺は壁に両手両足を拘束されていて何も出来ない。



「綱吉、」

「大丈夫だ真白、心配するな」

「……ごめんね、私の所為で」

「真白の所為じゃねぇ」



けれどこの狭い部屋には俺と真白しかいない。幻術の中でてっきりこの部屋には敵が数人はいるものだとばかり思っていた。とはいえ油断は出来ない。いつ敵が現れるかわからないし第一相手は幻術を使う。
一瞬、真白が歪んで見えた。



「でも私が捕まったから」

「真白が捕まったのは、俺が無力だったからだ」

「綱吉は、無力なんかじゃ、」

「俺は大切な人一人も護れねぇ、ダメツナだ」



何度も真白が歪んで見えた。しまいめには部屋全体までもが歪んで見えた。真白、と呟いてみたが声にはならず喉の奥に消えていった。何故なんだと理由を頭の中で考えていたら、





「もうやめて!綱吉が死んじゃう!お願いだからやめて!」



真白の悲痛な叫び声が体一杯に広がって響いた。これは現実なのか幻術なのかを必死で考え捉えようとしたけれどもはや超直感も役に立たなくなってしまっていた。だからこれが何なのかはわからない。



「真白……」

「綱吉!気がついた?痛いところない?私がわかる?」

「あぁわかる、真白だ、でも、」

「っ、綱吉!?綱吉ッ!」



ここが現実なのか幻術なのかわからない、と紡ごうとしたところで意識が何処かへ飛んだ。だから状況把握もままならなかった。
次にオレが目を開けると視界には病院のような真っ白い天井が視界に飛び込んできた。



「つな、よし……、」

「、真白?」

「やっと目を開けてくれた……」

「やっと?」



俺は一週間も眠りつづけたらしい。どうやら此処は幻術じゃなく現実のようだ。今のオレにはもうどこからどこまでが幻術だったのかわからない。だから真白に問うた。今まで何が――どんなことが起こっていたのか。



「私の元いたファミリーが私を連れ戻しに来て、綱吉は霧の守護者と戦闘になったの。それで綱吉、幻術に、」

「どこからが幻術か、わからないんだ」

「綱吉が夢を見ているところから、私がやめてって叫ぶ前までは全て幻術よ」

「そんなに……」



数十日後、オレは退院した。病院で意識がある時間はずっと真白と一緒だった。オレが頼んだこともあって真白がオレの傍にいてくれた。




それは全て幻術だった。
(もう平気なの?)
(あぁ。でもオレ、狂いそうだった)
(私もよ)
(どうして真白、幻術を解けたの?)
(わからない。無我夢中で叫んだから)
(……ありがとう真白)


とてつもなく長くて、全てが壊れるんじゃないかって怖かった。



(2010.10.16)




遅くなりましたがツナお誕生日記念でした!



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