いつものようにいつもの時間にいつもの笑顔で真白は俺の家にやって来た。真白の行動や笑顔に不自然なところなんてなかった。だからいつものように他愛もない話をしてはキスを交わしてまた他愛もない話をして、の繰り返し。
「ねぇ、約束しよう!」
「なんの?」
突然だった。真白がそう言ってきたのは。だけど俺は気になんてしなかった。また真白の気まぐれだろうって思っていつものようにただ返事をした。
「また会う、約束」
「またって……そんな、俺と真白が別れるみたいなこと、」
「別れるの、私たち」
「は!?真白何言って……」
俺の言葉は遮られた。真白にキスをされた。真白からキスをしてくるなんて珍しすぎる。真白を見てもいつもと変わらない。何かあるんだと直感的に思った。
「私、行かなくちゃいけないの。母上のもとへ」
「嘘……だろ?」
真白の顔が一気に暗くなった。俺はただ驚くことしか出来なくてどうして行かなきゃいけないのか理由なんて訊けなかった。真白の言葉を聞いたその一瞬だけ世界に色がなくなった。
「嘘なんかじゃない。私が嘘ついたこと、一度でもあった?」
「そりゃあ、なかったけど」
嘘を嫌うのが真白だ。どんなことであろうと正直に全てを話す。絶対に嘘はつかない。例えそれが誰であろうとどんな状況下であろうと。
俺は真白を抱きしめた。今の俺がどんな顔をしているかなんて大体予想がつく。だから真白には見られたくなかった。
「ね?ないでしょ?」
「でも真白、」
「約束。5年後の今日、この場所で」
「やく、そく……」
“やくそく”というたった4文字の言葉が今だけ残酷なものに見えた。今真白とこの約束を交わせば真白は行ってしまう。……だけど約束を交わさなくても真白は行ってしまうだろう。
「必ずまた、会おう?」
「……うん」
「指きり」
「必ず、だからな、真白」
承諾してしまった。ここで約束を交わさなければ真白ともう二度と会えない気がした。これ以上真白を哀しませたくないし哀しい顔もさせたくない。
二日後、真白は俺にありがとうと一言だけ言葉を残して旅立って行った。別れる間際に交わしたキスは少しだけ涙の味がした。
(2009.11.01)