次の日、オレは病院で誕生日を迎えた。
まぁオレなんかの誕生日を覚えててくれる人もいなくて……。
一人でベッドの上で、ただボーっと一日を過ごしていた。
昨日は災難だったなぁ、なんて考えて、昨日のことを思い出したりもした。
「何がボンゴリアン・バースデーパーティーだよ。リボーンのやつ、ふざけやがって」
思えば、一日こうやって、昨日のことの文句を言っていたような気がする。
誰も来ない、からな。
今この時間まで何をして過ごしてたかなんて、もう忘れた。
「あーあ、最悪だ」
オレがそう呟いたのとほぼ同時くらいに、病室の扉が開いた。
どうせこの部屋の他の患者の見舞いだろうと思って、窓側を向いて目を瞑った。
だけど、オレの考えは違っていた。
足音は他の患者を通り過ぎて、オレの目の前で止まった。
「ツナ」
聞き覚えのある声が、ふいに聞こえた。
その声に目を開けてみると、そこには真白が立っていて。
とても心配そうな顔――少なくともオレにはそう見えた――をしている。
「真白、」
「大丈夫?」
「うん、なんとか」
「よかった」
ふわりと笑う真白。
真白の手には、鞄と袋。
買い物に行ったついでに来た、ってところだろう。
ついで、なんだよな……。
「ツナが入院したって、聞いたからね、お見舞い」
「え?」
「ツナ今、お買い物のついでに来ただろうって、思ったでしょう?」
「違う、の?」
オレが問えば真白は、ついでなんてそんなわけないじゃないと、少し困ったような顔で言った。
じゃあ、手に持っている鞄と袋は一体何なんだろう。
「逆だよ。ツナのお見舞いに行くついでに、帰りにお買い物しようと思って」
「真白……」
また真白は、ふわりと笑った。
いつ見てもきれいな笑顔。
もしかしたらオレは、京子ちゃんより真白の方が好きなのかもしれない。
「あと今日、ツナの誕生日でしょう?病院で一人きりじゃ、寂しいんじゃないかって思って」
「オレの誕生日、覚えててくれたの?」
「当たり前じゃない。いつから一緒にいたと思ってるの?」
「ははっ、そうだね。ありがとう真白」
あぁきっとオレは、京子ちゃんより真白の方が好きなんだ。
今まで近すぎて気づかなかったけど、真白が好きなんだ。
不意に真白が、手に持っていた袋をオレに差し出す。
オレはこれが何なのか疑問に思ったけど、とりあえずそれを受け取った。
「これは?」
「ツナにお誕生日プレゼント。おめでとう、ツナ」
「あ、ありがとう……!」
「どういたしまして」
真白だけだ、オレの誕生日を覚えていてくれたのは。
プレゼントまで貰えるなんて、思ってもみなかった。
袋の中を覗いてみると、中には綺麗にラッピングされた細長い箱と、小さめの箱と、バスケットがあった。
一つ一つ、丁寧に開けていく。
「ネックレスと指輪と、果物?」
「うん。ツナが気に入ってくれたらいいんだけど……」
「ありがとう真白!オレこれ、ちょっと欲しいなって思ってたんだ!大切にするよ!」
「本当?よかった」
そう言っていつものようにふわりと笑った真白に、オレは見とれてしまった。
真白がツナ、とオレの名前を呼ぶまで、オレは真白に見とれていることに気づかなかった。
やっぱり、真白の笑顔はきれいだ。
「あ!果物切り分けてあげるね!何が食べたい?」
「んー……真白は、何が好き?」
「私?私は、林檎が好き。でも今は、梨の気分かな」
「じゃあ、梨お願いするよ」
わかったと真白は言って、オレはまに梨を手渡す。
それを受け取った真白は手早く梨の皮を剥いて、どこからか取り出した皿に切り分けて乗せていく。
すごいな、なんて思いながら、オレは見ていた。
オレと真白は、真白の切り分けてくれた梨を食べながら、ただ他愛もない話をしていた。
その時間は、すごく幸せな時間だった。
(2009.10.14)
ツナお誕生日記念でした。