貴方なんて、嫌いよ、大嫌い。どうしてこんな奴の下にいるのかと思考を巡らせた。そうしたらすぐに記憶は蘇ってきて、私に教えてくれた。今私がこんな奴の下にいるのは、そう、任務だ。
「真白は、本当に、きれいさ」
「ありがとう。ラビ、貴方も、本当にかっこいいわ」
上辺だけの言葉を紡ぐ。私は本当はそんなことを、一欠片も思っていない。私にとって、ブックマン次期後継者ラビという人物は、ただの、敵、憎むべき存在――ただそれだけ。
容赦のない深い口づけに感じてしまう私への怒りを必死に抑えながら、これは任務だと言い聞かせながら、私はラビに応える。
それはしばらくの間、途切れなく続いた。だけどそれも終わりは来る。
「真白?何処行くさ」
「食堂。少し喉が渇いたから」
「気をつけてな」
「ええ」
今日こそはと食堂に向かいながら考える。いつもいつも、ここぞというときに邪魔が入った。だけど今日は絶対に邪魔が入らない。なんたってラビの誕生日なんだもの、一週間も前から誕生日は私と過ごすから私の部屋には絶対に入るなとみんなに言って回っていたから。
「、真白……」
「ら……び、?」
食堂から部屋に戻ると、突然の抱擁、突然の口づけ。訳が分からなくて私は口づけのあとラビの背中に手を回した。
……早く、早く、殺してしまいたい。もううんざりよ憎い憎い大嫌いな奴に抱きしめられて口づけを交わして抱かれて。どれだけの屈辱かなんてもうわからない。
「すまねぇ真白」
「何を、言っている、の?」
「……ごめん」
「ら、び?」
ラビは一体何に対して謝っているの?私のことは、一切知らないはずよ。苗字さえ変えれば誰でもすぐに騙されるもの。ましてやあのときの子供が私だなんてわかるはずがないわ。
「紅波(くれは)真白」
「っ……!」
「真白の本当の名は、華紀真白じゃなくて、紅波真白だろ?」
「何、を、」
ラビを見上げた。真剣な顔をしていた。目が、合った――逸らさない、いや、逸らせない。ラビのその真剣な瞳に捉えられて視線を逸らすことが出来ない。
一体、ラビは、何を知っているというの……?
「紅波真白17歳。10歳のときに家族を亡くし孤児院に入った」
「……」
「そう、なんだろ?」
「……っ、」
思いっきりラビを突き放した。ラビはよろめきもせず私から離れてそこに立っている。真剣な瞳は変わらない。
どうして知っているの。私は何も言っていないわ。周りに私のことを知っている人もいない。それなのに、どうして。
「そうよ。私は紅波真白。10歳で家族を
殺され孤児院に入ったわ」
「…………」
「全部、全部貴方の所為よ!貴方のその右目の眼帯が私の家族を殺したのよ!貴方が、右目に、眼帯をしていなければ、私の家族、は、殺されなくて、済んだのよ!!」
「……すまねぇ」
服の中に忍ばせていた武器を取り出す。構えても、ラビは微動だにしない――動揺さえも見えない。驚きも恐怖もない。感じるのは……哀しみ、深い深い悲しみ。
……どうして、私は、涙を流しているの?
「貴方をこの手で殺す日を、待ちわびたわ」
「あぁ」
「っ、どうして!どうしてそんなにも、冷静でいられるの!?関係ないとでも!」
「関係ないなんて思ってないさ!あれは俺の責任だ。だから……真白に殺されるなら、それで本望さ……」
からん、手から武器が滑り落ちて床にぶつかった。何故落ちたのかはわからない。ラビの言葉を聞いたら何故か手に力が入らなくなった。
ねぇ、私。どうして今、泣いているの?どうして武器が落ちたの?ねぇ答えてよ。わからないの。
「でき、ない……っ!」
「真白、」
崩れ落ちた。ラビに抱きしめられる。泣き喚く私。ラビが温かくて仕方ない。口づけからは愛が沁み込んでくる。懐かしいこの感じ。家族がいた頃、この温かさが大好きだった。
……あぁそうか、私はきっと。
貴方を、愛しているわ、とてもよ。(2010.08.10)
ラビお誕生日記念でした。