友達の手作り朝ごはんを食べて、一日が始まった。友達の家から大学に行き、悶々と修兵さまのことを考えながら授業を受けていた。だから内容なんてほとんど頭に入っていない。
「葉鈴、何かあった?」
「ちょっと……ね。相談していい?」
「うん、何でも聞くよ」
「ありがとう」
修兵さまの名前は伏せて、友達に今までの出来事をざっくりと話した。友達は深く聞いてくるわけでもなく、ただ私の話に耳を傾けてくれた。私は何て良い友達を持ったんだろう。話していると少しだけ気持ちの整理が出来た。
「葉鈴は、その人のことを本気で好きなの?」
「そう……なのかな。たぶん、本気で好き」
「じゃあ、素直に謝って、事情を説明しなよ。そしたらきっと大丈夫」
「……うん。そうだね、そうする。ありがとう」
放課後のことだった。私は友達の後押しを得て謝ることにした。帰宅途中、ショッピングセンターに寄ってペンダントを買った。格子の中で輝く水色の玉がきれいで、すぐにこれだと思った。その後は喫茶店に立ち寄って紅茶を飲みながら、心の準備を整えた。
「……ただいま」
「葉鈴!」
「修兵……」
「おかえり、葉鈴」
家の前にたどり着いた頃には、すっかり陽は暮れ夜中も近くなってしまっていた。自宅玄関の扉を開け、中に入ると、すぐに修兵さまがやってきてぎゅっと強く強く抱きしめられた。私は何をしていたんだろうと後悔に襲われた。だけど、伝えなきゃ。
「すまねえ、葉鈴。俺、葉鈴に何かしたのかわかんなくて……」
「修兵は、何もしてないよ」
「俺のせいだろ?」
「違う。私が勝手に、」
話を途中で遮られ、部屋へ連れて行かれた。その短い間修兵さまは私の手を握っていた。そしてまた、抱きしめられる。きっとずっと私に何かしたのかと考えてくれてたんだと思う。修兵さまの腕の強さがそう言っている気がした。
「葉鈴……?」
「ごめんなさい、私……修兵が色んな女の人に声をかけられるのを見て、嫉妬してた。修兵の断り方にも……、また今度なんて、言わずに、ちゃんと断ってほしくて……。だけど、私は修兵の恋人でも、何でもないからって」
「すまねえ」
「修兵のせいじゃないよ。私が勝手に、嫉妬して、怒って……自己嫌悪しつ、修兵に当たっただけ。本当にごめんなさい」
仕方ないことだってわかってた。でもどうしていいかわからなくて……修兵さまにあたってしまった。何て馬鹿なことをしたのだろうと思うと、自分への怒りと悔しさから涙が出た。その涙を、修兵さまはそっと両手で頬を包み、親指で拭ってくれた。
「葉鈴」
「ん……」
「ごめんな、でも、嬉しい」
「修兵……?」
額に口づけをされ、ふわりと抱きしめられた。修兵さまの優しさが伝わってくるようで、一度は引いた涙がまた自然と溢れてきた。小さく嗚咽が漏れると、修兵さまはさっきと同じようにしてくれる。修兵さまを見上げてふと目に入った時計は、あと数秒で日付が変わろうとしていた。