修兵さまがうちに現れてから三日目。学校へ行く為に朝早くに起きて用意をしていると修兵さまが一階へおりてきた。眠そうに起きて目を擦りながら洗面所へ入って行くのを確認すると、私は朝ごはんの支度を始めた。
「おはよう、修兵」
「ん……ああ、葉鈴か、おはよう」
「私今日から学校あるから、帰ってくるまで家の中にいてね」
「わかった。ところでなあ、葉鈴、ギターとかねえか?」
ギター?と訊き返してから修兵さまはギターを弾くことが趣味であるということを思い出した。だけど確か、めちゃくちゃ下手くそだったような……。そんなことを片隅で考えながら、友達でギターを持っている人も探してみた。
「私は持ってないけど、友達は持ってた筈だよ」
「そうか……」
「借りてこようか?」
「いいのか!?」
目を輝かせて修兵さまが私を見る。ああもう、そんな目で見ないでくれ!キュン死にしちまうじゃないか!いっそ修兵さまの為にギター買ってあげたいくらいだよ!なんて思いながら、修兵さまの言葉に頷いた。
その後朝ごはんを食べ終えて学校へ向かい、友達にその話をするとあっさりと承諾してくれた。
「ハンバーグ……?」
「正解。おかえり、葉鈴」
「ただいま。私ハンバーグ大好きなんだ!」
「そりゃあよかったぜ」
玄関の扉を開けた瞬間に素晴らしくいい匂いがした。正体はハンバーグ。
私って何て幸せ者なんだ!修兵さまの手作りハンバーグが食べられるなんて!もうこれが夢だったとしても私文句なんて言わない!素敵すぎるぜ修兵さま……!
心の中で泣き叫んでいると、テーブルの上にお皿が並ぶ。私は急いで部屋へ行き荷物を置いて着替えてリビングへと戻った。
「ギター借りてきたよ!」
「さんきゅー葉鈴!」
「エレキギターだからそんなに音は出ないみたいだけど、家で弾く文には充分だって言ってた」
「おう」
朝のように目を輝かせてギターを見つめる修兵さま。そんな修兵さまに思わず見とれてしまう。ふと修兵さまが顔を上げた瞬間にばっちり視線が絡まった。お互いに何も言わずただただ時間だけが過ぎていった。
「葉鈴」
「な、に、」
「俺に惚れたか?」
「惚れ……っ!?」
真剣に言われて頬に熱が集まってくる。尚も視線は絡まったままで外すことが出来ない。と、不意に修兵さまが笑い出すから拍子抜けしてしまう。何があったのかと首を傾げていると修兵さまは口を開いた。
「葉鈴顔真っ赤。案外図星だったりするんじゃねえの?」
「男慣れしてないだけ!」
「ふうん……」
「信じなさい!」
男慣れしていないのも、修兵さまに惚れたのも事実。だけど余りに修兵さまが笑うから私もつられて笑ってしまった。もうどっちでもいいやという思いがこみ上げてきて、結局しばらく二人で笑い合っていた。せっかくの修兵さまの手作りハンバーグが覚めてしまっていたのが残念だったけれど。