二人はただ別々に、各々の目的地を目指して歩いているだけだった。時々過去を思い出し結果の原因推量をしては終わったことだと言い聞かせる。違う結果なら……と未来を想像してはもうないんだと気持ちを切り替える。互いにまだ想い合っていると知りながら――。

そうしていると、ふと見覚えのある顔を、二人ともが同時に見つけまさか……と心拍数が上がる。手に汗が滲み緊張しているんだと頭の片隅で考えた。そして、


 すれ違う。

 すれ違う。

 すれ違う――視線が絡まる。

 一瞬の出来事。

 真白は振り返り、



「辰巳!」



名前を呼ぶ。けれど男鹿は立ち止まらず振り返りもせずに去って行った。躊躇いがちに少し立ち止まったように見えたのは気の所為か、否か。



「(振り返っちゃいけねぇ。真白が苦しむだけだ。……残酷なことをしてるって、わかってるけど。それでも俺は)」

「辰巳!」

「(駄目だ……駄目なんだ)」

「(呼んでも駄目なら、追いかける。今度はもう、手放したくはないから)」



雑踏を掻き分けて真白は男鹿を追いかける。気づいている男鹿は尚も歩くスピードを緩めない。必死で追いかけて追いかけて――男鹿が路地に入った隙を見逃さなかった。ぐっと腕を掴み男鹿に飛び込む真白。



「お願い辰巳」

「……」

「辛くても苦しくてもいい。私は辰巳の傍にいたい」

「、駄目だ」



固く決意した筈が、やはり揺らぐ。好きで好きで仕方なくて大切に思う程、引き離さなければならないこともあると、そう知った男鹿。それに対して真白は、



「気づいたの、」

「気づいた?」

「私にとって何より、辰巳の傍にいられないことが苦しいんだって」

「……っ」



 絡み合う視線。

 崩れゆく決意。

 その瞳は哀しみを湛え、

 涙となって双眸から零れ落ち、

 ただ静かに頬を濡らす。

 両の手で濡れる頬を包み、

 涙を拭う、

 自らの左手をその右手に重ね合わせ、

 真っ直ぐに見つめる。


大通りは人で溢れ返り騒がしい筈なのに、二人の間に音はない。あるのは互いの想いだけ。……真白は続く言葉を一心に紡いでいく。



「どれだけ辰巳が傷ついても、傍にいれば手当てもしてあげられる。励ましてあげられる。ベル坊が強くなったら一緒に喜べる。強敵がいたら支えてあげられる。誰かに負けたらただ抱きしめていてあげられる。……だけど、傍にいなかったら?」

「いなかった、ら、」

「傍にいなかったら、何も出来ない。今日もどこかで喧嘩してるのかなって考えては、怪我してないかって心配になって何も出来ないことが歯痒いの」

「真白……」



静かな声音、男鹿の心に響く言葉。男鹿は真白の頬から手を離して強く抱きしめた。ゆっくりと真白は男鹿の背中に手を回して力を込めた。鼻腔を抜ける懐かしい匂いに二人は安堵する。

そっと離れて、見つめ合う。



「真白」「辰巳」

「「やり直そう」」



声が重なり、唇が重なる。互いに微笑んでもう一度。



(2012.02.02)




遅すぎですが男鹿くんお誕生日記念でした!



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